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『こちらはリコール対応でしばらく忙しいから帰ってこなくていい。
ECUが突然制御を失って暴れまわったかと思うと周りを巻き込んで過熱・発火に至るようだ。
現在ハード・ソフト両面から洗いだし中だが、悪質なのでとりあえずJG現象と名付けておいた。』


「・・・・・・・・・・あー・・根に持ってやがるなこいつ。」

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『撮影長引いてて、次そっちいけるのは8日くらいになりそ。半端にオフ出来たから一旦ケンタッキー帰る。』

『親父が最近すっごい血統の馬買ってた。鹿毛。名前まだっていうからプリンスにしてやった(笑)。お前が今度来る時までに人慣れさせとくからまたうちこいよ。』

『・・・・プリンスな、足癖悪いわ噛み癖あるわでもう大変。調教師逃げた。あの血統のがこんな値段で買えたって時点で気付けよ親父!』

『プリンス、なんとか俺は乗せてくれるようになった。相変わらず他のスタッフは逃げ腰だ。撮影までに傷だらけになりそうだよ俺。「お前、牝馬専門じゃなかったのか」って誰のせいだよ反省しろよクソ親父!』

『今日やっとプリンスと遠出したけれど、俺が行く方向ときれいに逆行こうとすんの!可愛くねぇ!』

『最近、やっとプリンスのやりたいことが分かってきた。すました顔して案外単純だったみたいだこいつ。存分に走れなくてストレス溜まってたみたいで、一日気長に付き合ってやったらすげぇフレンドリーになった。まだヘタな奴が乗ると1分以内に落とすけど。』

『慣れてくると、プリンスがすげぇ実は頭がいいのがわかった。こいつ、気に入らない人の指示はわからないふりをしていただけみたいだ。・・性格悪いな・・誰かさんみたいだ。』

『今日もプリンスと走ってた。そろそろ撮影戻らなきゃいけないから、しばらくプリンスと会えないのが辛いな。ドイツに委託できそうな牧場あったらいいんだけど。』

『撮影終わった。予定変更してプリンスに一度会ってから帰る。あ、妬いてんなよハイネル。』




『・・なんでわかったの?プリンスの本名がプリンス・フランツだって。』

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「またおかしげなプロジェクトを・・」
ディレクタールームでメーラーを開いたハイネルは、画面に向かって苦々しくつぶやいた。

「どしたのよ~」
二人分の昼食を片手に、もう片手に水のボトル2本をぶら下げたグーデリアンは部屋に入ってくるなり、ハイネルの眉間の皺の深さに苦笑した。
「・・本社から、各部署および関連会社で各自なんらかの経費削減のプランを立てろということだ。」
「あー、無駄な電気は消しましょう、とか?」
「本社の方で、どうやらなんらかのブームが起きているらしい。こんな事を考えるのはどうせロベルト伯父なんだろうが。」
「えーと、二男で小心者のほう?」
「そうだ。私に次々と婚約者を薦めてくるほうだ。」
ハイネルの父には二人の兄がいる。
二人を押しのけて社長となった父は表向きは二人を尊重する立場を崩さないが、祖父似で豪放で家業に興味の薄かった長兄はともかく、実力は今一つであるくせに人一倍野心は強く、隙あらば権力を奪おうと仕掛けてくる次兄にはハイネルは警戒心を抱いていた。
「よくもまぁ、色々なタイプ揃えてくるよなー。可愛い系大人系、年上年下・・」
従兄弟の中での実力差が明確になった現在、フランツ・ハイネルが時期社長に収まるのは致し方ないとして、せめて自分の息のかかった伴侶を送りこむことで自身の権力を増大させようという目論見が親族一同の中で渦巻いていた。

「せっかく紹介されてもお前、名前すら覚えてないだろ。」
グーデリアンは打ち合わせ用のテーブルに腰をおろし、ランチボックスを開けてみる。今日のボックスはマスタードソースのローストポーク、パスタ添え。付け合わせはズッキーニのピカタと浅漬けのザワークラウト。
「何件同時進行をしていると思っているんだ。プロフィールを確認するだけで大変なのだぞ。誰が誰かなんて覚えていられるか。フォルダはせいぜい、「背が高い」「背が低い」「ほどほど」程度だ。」
テーブルの向かいにハイネルが腰を下ろす。
「・・うっわ、ヒドイやつ。」
にやにや笑うグーデリアンから水を受け取り、一口口をつけてからハイネルはフォークをとった。
「先日、冗談半分で当分女性は間にあっていますと言ってみたら、最近は秘書にしろと男を送りこんでくるんだぞ。どこで見つけるのか美形で仕事もできる、性格もよくできた男ばかり。」
「ぶっ。」
「まぁ、大抵は金を掴まされただけだから、婚約者達や女性社員の相手をさせておくと勝手にくっついていくんだが。」
「・・何、人の色恋取りもってんだよ。」
「中には女性には本当に目もくれず、やたらと距離を詰めてこちらをじっと見つめてくるのもいるんだぞ。」
「へー。そいつはどうしたの。」
「語学が得意だとか言っていたから、タイ工場立ち上げに送りこんだ。」
「・・・ますますサイテーだな、お前。」
「使える人材は役立てないとな。」
さらりとかわし、ハイネルは上品にパスタを口に運びはじめた。

「だいたい、うちの経費に無駄なものなどないんだ。こんなものに時間を費やすのがまず無駄といいたいところなんだが、一応何か対策を立てておかないとまたおかしな方向に走るから・・」
「んー・・じゃ、オレのツアー中の部屋、おまえと一緒ってのはどう?」
「はぁ?」
「他のスタッフ、2-3人ずつ同部屋なんだし。オレの分とってもらっててもほとんど使わないでしょー。どうせ家帰ったら一緒だし。」
「・・・たしかにそうだが・・」
寄ると触るとケンカする、なのにいつも寄って触っているのだからもういい加減そのへんは認めてしまってもいいのだが、いざそうなると自分の体が休まらない気がするのだが。ハイネルは少し考え、ふと唇に指をあてた。
「・・・そうか、その手があったか。」
「ん?同室採用?」
「・・もっと効果的で、いい手があるじゃないか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ハイネルが口角を上げて妖艶な笑みを浮かべる時は、大抵が過激なことかろくでもないことを考えている時だ。長い付き合いでそのあたりもそろそろ悟ったグーデリアンはこれ以上深入りすることはやめ、そそくさと昼食を食べ終えた。


数日後、親族のみのランチミーティングの席で、伯父たちが自慢の削減案を色々と提示していくのをハイネルは末席から静かに聞いていた。
「では、フランツ君はどうだろう。優秀な君のことだから、さぞや素晴らしい削減案があるんだろう。」
したり顔で水を向けられたハイネルは、タブレットの資料をめくる手をとめるとにっこりとほほ笑んだ。
「ドライバーの経費を、そうですね、半額程度にはできそうな案は一つありますが。」
年間100万ユーロ単位という巨大な削減策をさらりと口にした若造に、会議室はどよめいた。
「フランツ君、正気か?」
「一体どうやって?」
気色ばむ親族たちを前に、フランツ・ハイネルは笑みを浮かべながら説明を続けた。
「皆さん、私が社員の枠を超えた額はもらってはいないのはご存じでしょう。まぁ、代わりにチームが巨額の運営費をいただいているのでなんら異存はありませんが。」
「確かに、まだ実績も少ない若いチームであるシュトルムツェンダーがなんとかやっていけるのは、君の技術のなせる技ではあるが・・あくまでも、君が身内だからできる技であって水平展開は難しいだろう?」
「たしかにそうですね。では、ジャッキー・グーデリアンも身内にしてしまえばいいのではないでしょうかね。」

会議室内に再びどよめきが起こった。ハイネルは笑顔のまま続ける。
「身内にしてしまえば間で暴利をむさぼるプロモーターを介することもなくなりますし、経営に引き入れて懐具合を知ってしまえば、莫大な金額を要求されることもなくなるでしょう。」
「確かにそうだが・・一体どうやって?」
長兄のクラウス伯父が面白そうに聞く。次兄は予想外の展開に、色白な顔をさらに蒼白にして口をぱくぱくさせていた。
「どなたかのご令嬢と結婚させてみるとか。養子にするのも一案ですね。」
世界の種馬を身内に入れる。その可能性と危険性に、居合わせた人間すべてが戦慄いた。
「ロベルトのところの娘、そろそろ結婚できる年齢じゃ・・」
「ま、まさか!あの子は素行がいまいちで!!大伯父のところにたしか妙齢の・・」
「わ、私の娘はもう心に決めた相手が・・」
「そ、そうですな、こういうのは本人同士が好きあっているのが一番で、ははははは。」
「生憎・・親戚内には彼に釣り合うような女性は・・」
「あぁそうか、女性に限ったことはないですね。同性婚も認められましたね。」
しれっと爆弾を投下するフランツ・ハイネルに、今度は独身の息子を持つ親族がびくりと縮こまる。
「もっとも、見ている限り彼はゲイではなさそうですが。・・あー、私なら落とせるかもしれませんね。やってみましょうか?年間100万ユーロ単位は大きいですね。」
普段は極めて真面目で堅物なはずの男が、父親譲りの魔性の笑みを浮かべながら言ってのけたその言葉に、親族一同が遂にフリーズした。

-誰か・・この場をどうにかしてくれ・・

皆の救いを求める目が集中した先には、現社長ゲオルグ・ハイネルが腕を組んで座っていた。金縁眼鏡の下から、淡い茶色の目が金色に光る。ゲオルグ・ハイネルは一言、ぽつりとつぶやいた。
「フランツ・・・冗談はやめてくれ。株価が下がる。」
「失礼しました、お父さん。」
いつも余裕の笑みを絶やさないゲオルグ・ハイネルが絞り出した地獄の底から響くような声に、小首を傾げて申し訳なさそうなそぶりを見せるフランツ・ハイネル以外のすべての人間がさらに固まった。


-その後の経営会議ではフランツ・ハイネルが出したこの削減案に、果たして痛烈な皮肉ととっていいものかはたまた本気なのか誰も結論を出す事ができず、うっかり蒸し返そうモノならばゲオルグ・ハイネルの金色の目に刺し殺されるような視線を向けられる。
結局、経費削減案ごと「踏み込んではいけない事例」だとしてうやむやに処理される結果となった。

「・・ほんとお前、サイテーだけどサイコー!」
後ほどハイネルから一部始終を聞いたグーデリアンは、涙目になるまで笑いこけたのだった。

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-朝は、どうしても食欲がわかない。

何か胃に入れておかなければと思うほど食欲をなくす自分の軟弱な精神にため息をつきつつ、フランツ・ハイネルはこっそりとピット内の冷蔵庫にサンドイッチを放り込んだ。

食品に好き嫌いはないほうではあるが、サーキットで出される食事は脂っこかったり塩辛かったりと、どうも彼の口には合わないことが多かった。
しかしアスリートとしてはそんなことでパフォーマンスを落とすことは耐えられない。デザインならともかく、何も自分で走ることはないだろうと頑なな父をやっとのことで説得し、やっとのことで殴りこんだCFの世界である。最初は正直デザインのためのステップ程度にしか思ってなかったのも事実であるが、最近ではこの荒っぽい世界がハイネル自身、意外にも気にいっていた。

なのにそこで出てきた食事の問題。しかしそれだけのために断念するにはあまりにも口惜しい。そこで最近では朝、自分好みのサンドイッチなどの軽食を作っては冷蔵庫に入れておき、ちょいちょいとつまんでは血糖値とテンションを維持するのがハイネルの常となっていた。
幸いにも今月はドイツGP。いつもならハムとチーズと野菜程度で作るサンドイッチも、実家のコックが転戦ばかりの彼の体を心配してもたせてくれた食材が豊富なのが嬉しくて、ハイネルはややふわふわとした足取りでピットを後にした。

しばらくして、隣のピットからずかずかとスタンピードのジャッキー・グーデリアンが現れた。
タイヤの用意をしていたSGMのメカニックの一人に声をかける。
「あちー・・チャーリー、お前んとこ、冷えたドクターペッパーないー?」
「あるぜ。そこの冷蔵庫に俺の分が入ってるから飲んでいいよ。ってか、お前余所んちのピットにずかずか入ってくんなよ。」
「昔カートで遊んだお前と俺の中じゃないのー、堅いこというなって。」
「・・あのなぁ普通、セッティングとか色々余所には秘密ってやつもあるんだぜ?」
「いや、見ててもどうせ俺バカだからわかんねぇし。自分とこでも何やってんのかさっぱわかんねぇし。」
「ま、そういやそうか。」
どこのピットでも、それでうまいこと納得されてしまうのがこの野郎の妙な魅力だとメカニックは思う。
いわば、レーサーというよりはサーキットのマスコットキャラ的な位置づけなのだろうか。
ふらふらとあちこちを渡り歩き、目につく女性に手当たり次第すり寄って、よしよしされてくんくんと鳴く。気に入った相手には野郎にでも懐く。走っている時以外はただの大型犬扱いだ。
それでいて、走らせると途端に猛獣に豹変する。カートカテゴリー時代、グーデリアンが後から追い上げてきた際の恐怖をメカニックは思い出した。あの冷たく光る薄い色の目は捕えた獲物を逃がさない。追い抜きざまに首元を一気に抉られるような感覚に襲われ、メカニックはその後のレース展開をまったく思い出せなかった。
これが世界のカテゴリーで戦う種類の人間というやつなのかと、その時彼は実感した。
ただ、普段は誰彼かまわず尻尾を振るやっぱり他愛ない大型犬で、なぜか懐にずかずか踏み込んでくるのを許してしまうのだった。

「俺の分、上段に入ってるから。」
「サンキュ・・・・・・・・お?」
グーデリアンがシャツの胸元をぱたぱたしながら冷蔵庫を開けると、中には、スタッフそれぞれの名前が書かれたドリンクの他に、そっけないジップロックで包まれたサンドイッチを見つけた。
「うまそ・・・・」
途端に胃が鳴り、他人のもののはずなのにあまりにみずみずしくておいしそうで、グーデリアンは思わず名前を確認することもなくジップロックに手を出してしまった。

最初は一つだけと思ったのが、どれもこれも捨てがたく。
味気ないラップで包んであるくせに、どれも繊細で複雑な味がする。
ケチャップじゃなくてきちんとトマトソースのハンバーグサンドとか。
いい香りのする薄切りのハムとたまねぎのピクルスとか。
見るからに瑞々しいきゅうりとトマトと、牛乳の風味のするチーズとか。
アーモンド入りのバタークリームは程よく甘くて香ばしい。

次々と現れる宝物を前に、自制の効かなくなったグーデリアンがすっかり平らげてしまったころ、体を動かして適度に空腹になったハイネルが戻ってきた。
「あ。私のサンドイッチ!」
グーデリアンの手の中のジップロックを指さし、思わず叫ぶ。
「これお前の? つい、うまそうな匂いがしてさー。ごめん!飯おごるから!」
「結構だ!ラップの下からかぎ分けるなんて、オマエは麻薬探知犬か!」
「俺、犬扱いかよ?!」
横ではらはらしながら聞いていたチャーリーが思わず噴き出す。
「でもさ、あれ、どこのサンドイッチ?ホテル?ケータリング?すっげーうまい!」
レース三昧で新鮮な味に餓えていたのはグーデリアンも同じだったらしい。眼をきらきらさせてすがるように詰め寄る蒼い眼に、ハイネルはとっさに叫んでしまった。
「んな・・・・さ、差し入れだ!知り合いからの!」
「・・え?」
意外な返答に、グーデリアンは眼を丸くした。
レーサーがレース前にうかつな差し入れを食べるわけはない。おまけにこいつは潔癖で有名なフランツ・ハイネルだ。ということは、知り合いは知り合いでも・・・。すっかり空になったジップロックをちら見して、グーデリアンは口の端を上げた。
「・・・・お前、意外にきちんとやることやってんのな。」
「は?」
「彼女はボンキュッボンだけど、結婚とかするならやっぱ料理上手だよなぁ。うんうん。」
「え?」
一体なんのことだろうと首をかしげるハイネルの肩を、グーデリアンがぽんぽんと叩く。
「いい選択だと思うぜ。こういう飾りっけのない料理センスの子ってなかなかいねぇよなぁ。俺、こういう差し入れされたら即落ちるわ。大事にしてやれよ?」
なんだか誤解が甚だしく違う方向に走っている気がするのは気のせいだろうか。
うんうんとうなずきながら去って行ったグーデリアンを見送り、ハイネルが助けを求めるように向けた視線を、チャーリーは首を振って『可哀想な子だから』のジェスチャーをした。

--そして数年後

「あの後、こっそりチャーリーにお前の手作りみたいだって聞いてびっくりしたんだよな俺・・。」
「まったく、意地汚い。」
「いやまぁ・・胃袋のセンスが合うって、大事じゃねぇ?」
「知らん。時間がないんだ。邪魔をするな。」
端末画面から顔も上げず、レーシングスーツ姿のハイネルは差しだされたサンドイッチをおざなりにつまみあげた。
自分でチームを運営するようになってチームの食生活は改善したものの、そこまで食べに行く時間もなく結局何かをつまみながらデータを確認したりセッティングを直したりする日々だった。
「・・ん?」
ライ麦入りのパンを薄く切り、具材はたっぷりのクレソンと焼いた上質なベーコンと、マスタードだけ。
いつものケータリングのサンドイッチの味とは違う、大胆だが素直な味にハイネルの手が一瞬止まる。
「料理上手な彼女、今度は逃がすなよ?」
「・・・ふん。」
にっと笑うグーデリアンを一瞬だけじろりと睨みつけ、ハイネルはサンドイッチを口に押し込んだ。

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その日、大変珍しいことに、グーデリアンは朝から機嫌が悪かった。

-喉いてぇ・・・
グーデリアンはモーターホームのソファで天井の模様を数えながら、自分の喉に手をやった。
昨日、上掛けを蹴っ飛ばして寝てしまったのが原因なのだろうか、喉が妙にいがらっぽい。
大したことはないが、午後には予選があるというのに飯はうまくないし、女の子に声をかけることすら億劫でいつもの調子がまったく出てこない。

-なんかのど飴とかねぇかな・・・そういや、ハイネルがいつも持ってたっけ。あいつ喉弱いから。
グーデリアンはもそもそと立ち上がると、ピットに向かって歩き出した。

「おーい、ハイネルーぅ。ごほっ。」
埃っぽく、揮発性の高いオイルの匂いが充満するピットの空気は今の喉には刺激が強すぎる。
せき込みながら声をかけると、スタッフと何事か打ち合わせをしていたハイネルが顔を上げた。まだレーシングスーツには着替えず、長い導電性ユニフォームのままグーデリアンを見上げる。口元で動く何かを舌で横に押しやって、ハイネルは声を出した。
「喉はもういいのか?」
「んー。あんまり。お前いつものど飴持ってただろ。ちょーだい。」
「あぁ。ちょっと待て。」
ハイネルはユニフォームのポケットに手を差し入れた。
高電圧、高磁界の危険の多い作業のために開発されたこのユニフォームは、工業ファブリックの技術者であるハイネルの母が開発して寄こしたものである。その安全性は確かに群を抜いていたが、空調の効いたラボでの開発段階ではともかく、実際のピットではあまりに色々めんどくさいという非常に現実的な理由により、現在では「ポケットが多くて便利」という、妙な利点を見出したハイネルしか着ていないという代物であった。
「ん?・・・ないな。」
ハイネルが首をかしげた。その合間にあちこちのポケットからペンや工具、端末、携帯電話、薄い財布からハンカチまであらゆる生活用品をぞろぞろと引き出していく。
-・・・ウエイトトレーニングかよ
グーデリアンが心の中でツッコミを入れていると、ようやく、ハイネルが再び顔を上げた。
「すまん、私がなめているので最後だったみたいだ。今荷物から出すから待ってろ。」
自分の口元を指さし、ころころと転がしてみせる。肉の薄い頬の下でなにかが動くのを、グーデリアンは確認した。

「とりあえず、それでいい。」
「え?」
ぽかんとしたハイネルの顎をつかんで上げさせ、唇を合わせる。すかさず厚い舌を入れ、ハイネルの舌の上で転がっていた飴玉をかすめ取るとグーデリアンは体を離した。
「ごちそーさん。」
「・・・な・・返せ!」
正気に返ったハイネルがすごい早さで椅子を蹴飛ばしてグーデリアンにつかみかかった。グーデリアンはひらしと交わし、ピットの外へ走り出す。
「なんだよけーち。ほかにあるんだろ?」
「今持っているのは最後のひとつだったんだ!バカ者!」
ハイネルがユニフォームの裾を勢いよく蹴り上げ、グーデリアンを追いかけていった。

身体能力の優れた大男二人が勢いよく駆け抜けていく姿を見ながら、一部始終を見ていたスタッフ一同はようやく口を開いた。
「・・・・・・・・・・嵐が去った・・。」
「・・いや、今からが本番だろ?ほんとに誰だよシュトルムツェンダーとか名前つけたやつ。」
「気圧の低いほうと高いほうがいる限り無理だろ。」
「誰ウマ・・」
「・・あれで、本人たちは真剣に何事もないとか思ってんだから重症だよなぁ・・。」
「無意識だもんなぁ。」
「返せって。そこは色々違うよなぁ・・」
うんうんとうなずきながら、スタッフ一同は二人が走りつかれて帰ってくるまでしばし休憩と散っていった。

当人たちはまったくその気はないくせに、必要以上に寄って触っていくのはなぜなのか。
巷では公式ホームページが一番いちゃいちゃしていると評判で、これ以上変な噂を流したくない広報とアクセス数とグッズ売り上げを稼ぎたい経理の間で不毛な戦いが繰り広げられているのは知っているのだろうか。

発電して帯電して感電して放電して。
超電導リニアホイールのエネルギー源たちは今日もあまりにもいつもどおりだった。

-------------
帯電放電の続き。

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