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「またおかしげなプロジェクトを・・」
ディレクタールームでメーラーを開いたハイネルは、画面に向かって苦々しくつぶやいた。

「どしたのよ~」
二人分の昼食を片手に、もう片手に水のボトル2本をぶら下げたグーデリアンは部屋に入ってくるなり、ハイネルの眉間の皺の深さに苦笑した。
「・・本社から、各部署および関連会社で各自なんらかの経費削減のプランを立てろということだ。」
「あー、無駄な電気は消しましょう、とか?」
「本社の方で、どうやらなんらかのブームが起きているらしい。こんな事を考えるのはどうせロベルト伯父なんだろうが。」
「えーと、二男で小心者のほう?」
「そうだ。私に次々と婚約者を薦めてくるほうだ。」
ハイネルの父には二人の兄がいる。
二人を押しのけて社長となった父は表向きは二人を尊重する立場を崩さないが、祖父似で豪放で家業に興味の薄かった長兄はともかく、実力は今一つであるくせに人一倍野心は強く、隙あらば権力を奪おうと仕掛けてくる次兄にはハイネルは警戒心を抱いていた。
「よくもまぁ、色々なタイプ揃えてくるよなー。可愛い系大人系、年上年下・・」
従兄弟の中での実力差が明確になった現在、フランツ・ハイネルが時期社長に収まるのは致し方ないとして、せめて自分の息のかかった伴侶を送りこむことで自身の権力を増大させようという目論見が親族一同の中で渦巻いていた。

「せっかく紹介されてもお前、名前すら覚えてないだろ。」
グーデリアンは打ち合わせ用のテーブルに腰をおろし、ランチボックスを開けてみる。今日のボックスはマスタードソースのローストポーク、パスタ添え。付け合わせはズッキーニのピカタと浅漬けのザワークラウト。
「何件同時進行をしていると思っているんだ。プロフィールを確認するだけで大変なのだぞ。誰が誰かなんて覚えていられるか。フォルダはせいぜい、「背が高い」「背が低い」「ほどほど」程度だ。」
テーブルの向かいにハイネルが腰を下ろす。
「・・うっわ、ヒドイやつ。」
にやにや笑うグーデリアンから水を受け取り、一口口をつけてからハイネルはフォークをとった。
「先日、冗談半分で当分女性は間にあっていますと言ってみたら、最近は秘書にしろと男を送りこんでくるんだぞ。どこで見つけるのか美形で仕事もできる、性格もよくできた男ばかり。」
「ぶっ。」
「まぁ、大抵は金を掴まされただけだから、婚約者達や女性社員の相手をさせておくと勝手にくっついていくんだが。」
「・・何、人の色恋取りもってんだよ。」
「中には女性には本当に目もくれず、やたらと距離を詰めてこちらをじっと見つめてくるのもいるんだぞ。」
「へー。そいつはどうしたの。」
「語学が得意だとか言っていたから、タイ工場立ち上げに送りこんだ。」
「・・・ますますサイテーだな、お前。」
「使える人材は役立てないとな。」
さらりとかわし、ハイネルは上品にパスタを口に運びはじめた。

「だいたい、うちの経費に無駄なものなどないんだ。こんなものに時間を費やすのがまず無駄といいたいところなんだが、一応何か対策を立てておかないとまたおかしな方向に走るから・・」
「んー・・じゃ、オレのツアー中の部屋、おまえと一緒ってのはどう?」
「はぁ?」
「他のスタッフ、2-3人ずつ同部屋なんだし。オレの分とってもらっててもほとんど使わないでしょー。どうせ家帰ったら一緒だし。」
「・・・たしかにそうだが・・」
寄ると触るとケンカする、なのにいつも寄って触っているのだからもういい加減そのへんは認めてしまってもいいのだが、いざそうなると自分の体が休まらない気がするのだが。ハイネルは少し考え、ふと唇に指をあてた。
「・・・そうか、その手があったか。」
「ん?同室採用?」
「・・もっと効果的で、いい手があるじゃないか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ハイネルが口角を上げて妖艶な笑みを浮かべる時は、大抵が過激なことかろくでもないことを考えている時だ。長い付き合いでそのあたりもそろそろ悟ったグーデリアンはこれ以上深入りすることはやめ、そそくさと昼食を食べ終えた。


数日後、親族のみのランチミーティングの席で、伯父たちが自慢の削減案を色々と提示していくのをハイネルは末席から静かに聞いていた。
「では、フランツ君はどうだろう。優秀な君のことだから、さぞや素晴らしい削減案があるんだろう。」
したり顔で水を向けられたハイネルは、タブレットの資料をめくる手をとめるとにっこりとほほ笑んだ。
「ドライバーの経費を、そうですね、半額程度にはできそうな案は一つありますが。」
年間100万ユーロ単位という巨大な削減策をさらりと口にした若造に、会議室はどよめいた。
「フランツ君、正気か?」
「一体どうやって?」
気色ばむ親族たちを前に、フランツ・ハイネルは笑みを浮かべながら説明を続けた。
「皆さん、私が社員の枠を超えた額はもらってはいないのはご存じでしょう。まぁ、代わりにチームが巨額の運営費をいただいているのでなんら異存はありませんが。」
「確かに、まだ実績も少ない若いチームであるシュトルムツェンダーがなんとかやっていけるのは、君の技術のなせる技ではあるが・・あくまでも、君が身内だからできる技であって水平展開は難しいだろう?」
「たしかにそうですね。では、ジャッキー・グーデリアンも身内にしてしまえばいいのではないでしょうかね。」

会議室内に再びどよめきが起こった。ハイネルは笑顔のまま続ける。
「身内にしてしまえば間で暴利をむさぼるプロモーターを介することもなくなりますし、経営に引き入れて懐具合を知ってしまえば、莫大な金額を要求されることもなくなるでしょう。」
「確かにそうだが・・一体どうやって?」
長兄のクラウス伯父が面白そうに聞く。次兄は予想外の展開に、色白な顔をさらに蒼白にして口をぱくぱくさせていた。
「どなたかのご令嬢と結婚させてみるとか。養子にするのも一案ですね。」
世界の種馬を身内に入れる。その可能性と危険性に、居合わせた人間すべてが戦慄いた。
「ロベルトのところの娘、そろそろ結婚できる年齢じゃ・・」
「ま、まさか!あの子は素行がいまいちで!!大伯父のところにたしか妙齢の・・」
「わ、私の娘はもう心に決めた相手が・・」
「そ、そうですな、こういうのは本人同士が好きあっているのが一番で、ははははは。」
「生憎・・親戚内には彼に釣り合うような女性は・・」
「あぁそうか、女性に限ったことはないですね。同性婚も認められましたね。」
しれっと爆弾を投下するフランツ・ハイネルに、今度は独身の息子を持つ親族がびくりと縮こまる。
「もっとも、見ている限り彼はゲイではなさそうですが。・・あー、私なら落とせるかもしれませんね。やってみましょうか?年間100万ユーロ単位は大きいですね。」
普段は極めて真面目で堅物なはずの男が、父親譲りの魔性の笑みを浮かべながら言ってのけたその言葉に、親族一同が遂にフリーズした。

-誰か・・この場をどうにかしてくれ・・

皆の救いを求める目が集中した先には、現社長ゲオルグ・ハイネルが腕を組んで座っていた。金縁眼鏡の下から、淡い茶色の目が金色に光る。ゲオルグ・ハイネルは一言、ぽつりとつぶやいた。
「フランツ・・・冗談はやめてくれ。株価が下がる。」
「失礼しました、お父さん。」
いつも余裕の笑みを絶やさないゲオルグ・ハイネルが絞り出した地獄の底から響くような声に、小首を傾げて申し訳なさそうなそぶりを見せるフランツ・ハイネル以外のすべての人間がさらに固まった。


-その後の経営会議ではフランツ・ハイネルが出したこの削減案に、果たして痛烈な皮肉ととっていいものかはたまた本気なのか誰も結論を出す事ができず、うっかり蒸し返そうモノならばゲオルグ・ハイネルの金色の目に刺し殺されるような視線を向けられる。
結局、経費削減案ごと「踏み込んではいけない事例」だとしてうやむやに処理される結果となった。

「・・ほんとお前、サイテーだけどサイコー!」
後ほどハイネルから一部始終を聞いたグーデリアンは、涙目になるまで笑いこけたのだった。

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