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「う・・・」
次の朝、いまだかつて経験のない頭痛と胃痛を堪えながら、ハイネルはなんとか身支度を整えた。

-これが、二日酔いというやつか・・
日頃理性と節制とを信条としている上、体質的にも処理能力が追いつかないという経験がなかったフランツ・ハイネルにとって、パーティーの翌日などでスタッフが撃沈している様子は不思議なものだった。
それが40歳近くになった今、はじめてわが身に降りかかっている。

-なるほど、これは辛いわけだ。・・・肝臓が経年劣化しているのかもしれないが。
大きなため息とともに、処理しきれないアルデヒドが呼気から発散される。
陸に上がった魚のようにぱくぱくと空気を求めながら、ハイネルはキッチンのドアを開けた。

「おふぁよ。」
そこには既に、立ったままトーストを一枚齧りながら、オーブンの中を覗きこんでいるグーデリアンがいた。

「・・早いな・・」
「もうそろそろ昼だぜ。腹減ったんだよ。昨日あんまりがっつり食えてないし。昨日の煮込みにチーズ載せて焼いてんだけど、お前も食べる?」
「・・・・いや、いい。」
漂う濃厚な匂いに更に胃がきりきりと痛むのを感じ、ハイネルは早々に立ち去ろうと冷蔵庫を開けた。
いつもの水を出そうとして、見慣れないボトルがあるのに気付く。
「・・・水?」
「それね、最近俺が飲んでたハワイのミネラルウォーター。軟水。こっち硬水ばかりだから先に一箱送っといたの、忘れてたんだよ。それと牛乳と持ってきて。」
グーデリアンはグラス4つと、かりかりに焼けたトースト数枚、焼き上がったグラタンをトレイに載せ、さっさとダイニングへと向かった。

「出来たてもいいんだけど、次の日のこれがうまいんだよなー。あ、でも明日は白い柔らかいソーセージ食いたいな。」
チーズがとろけるグラタンをトーストにのせ、大口で齧りつく。
その向かいによろよろと腰を下ろしたハイネルは、水をグラスに注いで一気に飲みほした。
「今日は仕事は休み?」
「本社関連は家でやる。こんな姿で出社したら父に何を言われるか・・。ラボはひと段落しているから、何かあれば連絡がくるだろう。」
「なんか、ボロボロだな。」
とろけこぼれたチーズをフォークで巻き取りながら、グーデリアンが問う。ハイネルは椅子に深くもたれかかり、頭を振った。
「・・胃が痛いから。話しかけるな。」
「ハイネル、もしかして二日酔い初めてか?」
「・・・・悪いか。」
「そういやぁ、あんまりお前つぶれてるの見たことないもんな。待ってな。」
トーストを一枚平らげたグーデリアンは手をぱんぱんと叩き、キッチンに消えると小さな瓶とスプーンとを持って現れた。
「そういう時は水ばっかじゃなくてな。蜂蜜を牛乳にいれてちょっとずつ飲むの。胃がマシになったらフルーツとか薄いスープとかな。」
グラスに半分ほど牛乳を注ぎ、金色の蜂蜜をたっぷり一匙すくってくるくると混ぜ、ハイネルに寄こす。
一口飲んで甘さに眉をひそめ、ハイネルは再び水を口に含んだ。その様子を、グーデリアンはテーブルに肘をついてにんまりと観察する。
「いい年して胃が荒れるまで飲むなよ。ほんとお前、なんでも知ってるようで案外知らないことも多いんだよな。」
「・・うるさい。」
からかう口調にむっつりと返し、それでもハイネルはまた牛乳のグラスを舐め、つぶやいた。
窓から眺めた外は既に日が高く、夏の到来を思わせる空が広がっていた。
「・・・・世間でいう飲まなきゃやってられない、という気持ちが、よくわかった。」
「んー?」
「・・・誰に相談できるものでもなかったしな。」
再びトーストを齧りつつ、グーデリアンは上目づかいにハイネルを見上げた。

普段オーナーとして次期社長として完璧な采配を揮っているはずの自分が、グーデリアンの前でだけは意外と脆くなっているのを感じたのはいつからだろう。
貯め込んでいたストレスが、ふとしたきっかけで大きな洪水を起こしてしまった。
まさかの隠し子も、自分さえ黙っておけば誰にもわからなかったはずなのに。

「あー、ヨハンのことね。」
唇についたソースを舌でなめとりながら、グーデリアンは軽く言った。
「しょうがないんじゃね?俺だって探せば一人や二人、うっかりどこかから出てくる気がするし?」
「・・軽く言うな。・・日頃バカで鈍いくせに、なんでそんな所だけ鋭いんだ。」
「・・ひっでぇ言われ方してんな。俺。」
「大体、お前は真っ先になんで彼が私の血縁者だと思ったんだ?そんなに似ているならまず父やチーフが気付くだろうに。」
「んー、目の感じが違うからなぁ。形も違うし、オトーサンもあんたも恐ろしく虹彩がきついけど、ヨハンは柔らかい感じがする。」
グーデリアンはハイネルの目を指さし、そのまま指先を首から鎖骨にかけてなぞるように下ろした。
「でも、骨格はお前と出会った時の後ろ姿にそっくりだと思うし、あとな、ヨハンが笑ってる感じがお前がその・・やった後とかの、ほけっとしてる顔?」
そこでじろっと睨まれて、グーデリアンはにっと笑って矛先をそらした。
「まぁな、俺、実家でたくさん生き物飼ってたからな。動物見分けるの得意だし、人の顔覚えるのも得意なの。」
「・・そんなことで隠し子を暴かれては大変だ。」
「まぁー・・って、お前はなんで気付いたのよ。」
「・・入社研修をチーフに2時間ほど押し付けられてな。差し迫った仕事もあったし、一つ課題を出して何を見てもいいから、どんな破天荒なアイデアでもいいから出してみるようにとほっといてみたんだ。」
「・・・・お前、そのめんどくさがり、どうにかしろよ。」
「まぁ、何か面白い発想でもあればいいなと思ってレポートを見ていたら、一つ私の考えを写したんじゃないかと思う出来のものがあってな。どこの専門機関の出身かと思って調べたら技術学校を出ただけだと言うじゃないか。」
「へぇ。すげぇ、中身がまさかのお前似か。」
「チーフに聞いてもなかなか見どころがあるらしいから、ちょっと気になって色々と調べてみたら・・・な。」
「・・・・・・っとに、お前はもう・・・。」
苦笑しながらグーデリアンは自分もグラスに牛乳を注ぎ、一気に飲み干す。

「呆れただろう。存分に笑え。」
ハイネルは椅子の背に首を預け、空を向いて自嘲気味に吐き捨てる。人生最大の失敗をよりによってパートナーに見破られるなど、さすがに言訳する気にもなれない。だが、グーデリアンが発したのは思いがけない言葉だった。
「いや、さすがだと思うよ。」
「・・嫌みか・・?」
「じゃなくて。俺もさ、よくキスだけで子供が出来そうーとか言われてるけど、未成年の時に指一本触れずにしれっと子供作ってましたーってのはさすがにできなかったわけよ。」
からからと屈託なく笑うグーデリアンに腹はない。
「それがまさか、お前に男っぷりで負ける日が来るなんてなぁ。おまけにシュティールから市販車まで、お前の遺伝子が入った車が世界中で走ってるわけだろ?もう太刀打ちできるわけないじゃん。」
両手を上げて大げさに降参のポーズをするグーデリアンに、ハイネルの顔に薄く笑みが戻る。
「・・世界の種馬にそう言われると、複雑だ。」
「そんなお前と20年もつきあってる俺、カッコいいよなぁ。」
「・・勝手に言ってろ。」
「おんや、ちょっと元気出てきた?効くだろそれ。」
ハイネルの手許から空になった牛乳のグラスを取り上げて、グーデリアンは自分の皿とともに立ち上がった。
「じゃ俺、片づけたらちょっと遊びに行ってくる。夕飯はポテト料理でうまいビール飲みたい。」
「わかった。」
上を向いたハイネルの頬に、いつも通りの温かいキスが降りてくる。

-なんでお前はそんなに私を許してくれるんだ。

付き合い始めて20年ほど。もう愛だの恋だのといった感情はなく。
この男といると世間で期待されているのとはまったく正反対の、理性的でもなく、むしろめんどくさがりで、ややこしい案件からは逃げてしまいたくなる自分の弱い部分が表面に出てきてしまう。
なのにそれを落胆するでもなく、むしろ失敗も喜々として受け入れてくれるのはなぜだろう。

キッチンから投げキッスをよこすのをしっしっと追い払いながら、ハイネルはもう一口水を口に運び、ぼんやりと窓の外を眺めた。

---------------つづく

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