『ちょっと走ってくる』
長いようで短いドイツの夏を惜しむように、首元まできちりとライディングスーツを着たハイネルが小さな暴れ馬でするりと本宅の広大な庭を抜けて行ったのは、朝早くのことだった。
「何、ハイネルまだ帰ってねぇの?」
出迎えてくれた執事にジャケットを預け、グーデリアンはソファに腰を下ろした。
久々のオフだったのに、グーデリアンには午前にアメリカの車雑誌からつまらない取材が一つ入っていて。
『あー、サボりたい・・・たまにゃ朝からハイネルとグダグダ過ごしたい・・・』
『お前、そのうちアメリカに忘れられるぞ。』
『・・へい。』
-というか、その前にお前に忘れられそうで怖いんですけどね、俺は。
一応こねてみた駄々も一瞬で撃破され、しぶしぶ別行動となったのだった。
-大丈夫かねぇ
朝は快晴だったのに背の高い窓から見上げる空には昼過ぎから段々と厚い雲が被さってきていた。
配信映画が1本終わり、ポットの紅茶も冷め始めた頃にはついに遠方では雷鳴が轟き始めた。
「先ほど、もうすぐ戻られるとのお電話がありました。」
「あー、気にしなくていいんで。気まぐれな坊ちゃんのお守も大変っすね。」
普段仕事の事となるときっちりすぎるほどの管理をする男が、自分相手にだけは結構めんどくさがりでズボラでいい加減なのに気付いたのはいつだろう。
-あー、これが釣った魚にはなんとかってヤツか。
自分にも身に覚えはないこともないが、まさか自分がされる側になるとは。
申し訳なさそうに頭を下げる執事に苦笑を返し、グーデリアンは再度映画配信を探し始めた。
グーデリアンがうとうととし始めた頃、ゴツゴツとした足音と複数の男性がしゃべる低い声が聞こえた気がした。ドアを開けてみれば、点々と水滴が廊下に残り、後からは二人組のメイドがモップを持ち、水滴掃除に余念がない。
「あ、先ほどフランツ様がお戻りになられました。」
「サンキュ、シンデレラさん達。」
メイドに大げさに投げキスをして、グーデリアンは水滴の続くほうへ歩いていった。
「おかえりー遅かったな・・・・・ん?。」
客間のドアを開けて目に入ったのは、びしょ濡れの黒いライディングスーツのハイネルと・・汗なのかヘルメットの通気口から入った雨なのか、額にかかる濡れた金髪をうっとおしそうにかきあげているランドルだった。
「・・・今日、ランドルと一緒だったの?」
「言ってなかったか?」
「すまなかったな、ハイネル。まさかランドル家の気象予報システムが外れるなんて。」
「仕方ないさ。いい息抜きにはなった。よければ装備は私のほうでメンテナンスをしておこう。」
「頼む。」
話しながら、二人は何人かの執事やメイドに厚手のタオルでざっと表面の水分を吸わせ、一つずつ装備を外しては預けていく。
ヘルメット、ブーツ、ライディングスーツ、アンダースーツ・・撥水加工のつなぎ目や通気口から浸水した水分が奥のほうまでじっとりとしみ込んでいる。
「ここまで雨に降られたのは久しぶりだ。」
「やはりツーリングはトランスポーター付きにしよう、ハイネル。」
「まぁ、たしかにそれが合理的だが・・。」
既にTシャツと下着のみになったランドルがはりついたシャツを脱ぐ。最近身長が伸び、体格も「男」に近付きつつある体が、ハイネルのシャツの首筋に指をかけて中を覗く。
「大体、君は僕より日焼けするだろう。あんまり紫外線に当たらないほうがいいんじゃないか?」
「そんなに焼けているか?」
「今日は大丈夫みたいだ。」
「よかった。後でヒリヒリするのはごめんだ。」
ハイネルはさっさとシャツを脱ぎ、下着に指をかけた。
「・・・ちょっと待て!さすがにちょっと待て!!」
いきなり手首を掴まれて、ハイネルがきょとんと顔を上げる。
「なんだ、グーデリアン?」
「お前ら・・ここで下着まで脱ぐの?」
指さす先を見回せば、執事とメイドが数人、そしてランドル。一通り確認し、ハイネルは再び首をかしげた。
「そこでメイドがバスローブを持って待機しているが?」
何か問題が?という顔に、グーデリアンがハイネルの両肩を掴む。
「いや、そこはダメだろう!」
「・・何がダメなのか、わかるように説明してくれないか?」
「僕もわからないぞ。シャワーの前には裸になるだろう。」
「裸が、じゃなくて、こういうシチュエーションで!」
衆人環視の真ん中で、しかも女性が含まれる中で局部まで晒してんじゃねぇよと言いたいのだが、あまりの衝撃に言葉がうまく出てこない。
待てよ、こういうのは普通俺がやらかしてハイネルが止めるんじゃなかったか?とグーデリアンの頭をぐるぐると色々な思惑が駆け巡ってなんだかもうよくわからない。
「ロッカールームとかサウナで普通に裸になるが、何か問題があったか?」
「全く、アメリカ人というのはよくわからないな。」
下着だけでひそひそ話し合う二人にはまったく通じていない。
「アメリカじゃあな、人前でパンツ脱ぐのは病院と彼女の前だけなの!」
グーデリアンは吠えた。なぜか、大きな敗北感を覚えながら。
-その夜。
「ふうん、彼女、か。」
ラボ近くのアパートメントで風呂上がり、ハイネルはコーヒーを淹れながらつぶやいた。
「だからあれば言葉のアヤ!あそこで俺に彼氏って言ってほしかったのかお前?!」
ソファで雑誌片手に寝転がっていたグーデリアンは起き上がり、不服の意を表した。
「別に?第一、私はお前の彼氏でも彼女でもないしな。」
ハイネルはコーヒーと郵便物を片手に、仕事机と小さなベッドのある自分の仕事部屋へ向かう。パジャマの襟元は上まできっちり止めて。
「え、何、今晩やらないの?」
「仕事があるから邪魔をするな。おやすみ。」
あわてて引いてみた袖口は邪険に振り払われて。
-あぁ、ヨーロッパ人めんどくさい!
ドイツに来てもう数年。
そろそろ本気でシュトロブラムスのコールセンターに「フランツ・ハイネルの取扱書」を請求してやろうかと、グーデリアンは今夜も枕を涙で濡らすのだった。
---------------
チャットお疲れ様でした。
確認したらかきかけのままアップしてなかったので、ちょっと足して・・・
裸が、というよりは、ヤキモキするグーが書きたかっただけでした。
長いようで短いドイツの夏を惜しむように、首元まできちりとライディングスーツを着たハイネルが小さな暴れ馬でするりと本宅の広大な庭を抜けて行ったのは、朝早くのことだった。
「何、ハイネルまだ帰ってねぇの?」
出迎えてくれた執事にジャケットを預け、グーデリアンはソファに腰を下ろした。
久々のオフだったのに、グーデリアンには午前にアメリカの車雑誌からつまらない取材が一つ入っていて。
『あー、サボりたい・・・たまにゃ朝からハイネルとグダグダ過ごしたい・・・』
『お前、そのうちアメリカに忘れられるぞ。』
『・・へい。』
-というか、その前にお前に忘れられそうで怖いんですけどね、俺は。
一応こねてみた駄々も一瞬で撃破され、しぶしぶ別行動となったのだった。
-大丈夫かねぇ
朝は快晴だったのに背の高い窓から見上げる空には昼過ぎから段々と厚い雲が被さってきていた。
配信映画が1本終わり、ポットの紅茶も冷め始めた頃にはついに遠方では雷鳴が轟き始めた。
「先ほど、もうすぐ戻られるとのお電話がありました。」
「あー、気にしなくていいんで。気まぐれな坊ちゃんのお守も大変っすね。」
普段仕事の事となるときっちりすぎるほどの管理をする男が、自分相手にだけは結構めんどくさがりでズボラでいい加減なのに気付いたのはいつだろう。
-あー、これが釣った魚にはなんとかってヤツか。
自分にも身に覚えはないこともないが、まさか自分がされる側になるとは。
申し訳なさそうに頭を下げる執事に苦笑を返し、グーデリアンは再度映画配信を探し始めた。
グーデリアンがうとうととし始めた頃、ゴツゴツとした足音と複数の男性がしゃべる低い声が聞こえた気がした。ドアを開けてみれば、点々と水滴が廊下に残り、後からは二人組のメイドがモップを持ち、水滴掃除に余念がない。
「あ、先ほどフランツ様がお戻りになられました。」
「サンキュ、シンデレラさん達。」
メイドに大げさに投げキスをして、グーデリアンは水滴の続くほうへ歩いていった。
「おかえりー遅かったな・・・・・ん?。」
客間のドアを開けて目に入ったのは、びしょ濡れの黒いライディングスーツのハイネルと・・汗なのかヘルメットの通気口から入った雨なのか、額にかかる濡れた金髪をうっとおしそうにかきあげているランドルだった。
「・・・今日、ランドルと一緒だったの?」
「言ってなかったか?」
「すまなかったな、ハイネル。まさかランドル家の気象予報システムが外れるなんて。」
「仕方ないさ。いい息抜きにはなった。よければ装備は私のほうでメンテナンスをしておこう。」
「頼む。」
話しながら、二人は何人かの執事やメイドに厚手のタオルでざっと表面の水分を吸わせ、一つずつ装備を外しては預けていく。
ヘルメット、ブーツ、ライディングスーツ、アンダースーツ・・撥水加工のつなぎ目や通気口から浸水した水分が奥のほうまでじっとりとしみ込んでいる。
「ここまで雨に降られたのは久しぶりだ。」
「やはりツーリングはトランスポーター付きにしよう、ハイネル。」
「まぁ、たしかにそれが合理的だが・・。」
既にTシャツと下着のみになったランドルがはりついたシャツを脱ぐ。最近身長が伸び、体格も「男」に近付きつつある体が、ハイネルのシャツの首筋に指をかけて中を覗く。
「大体、君は僕より日焼けするだろう。あんまり紫外線に当たらないほうがいいんじゃないか?」
「そんなに焼けているか?」
「今日は大丈夫みたいだ。」
「よかった。後でヒリヒリするのはごめんだ。」
ハイネルはさっさとシャツを脱ぎ、下着に指をかけた。
「・・・ちょっと待て!さすがにちょっと待て!!」
いきなり手首を掴まれて、ハイネルがきょとんと顔を上げる。
「なんだ、グーデリアン?」
「お前ら・・ここで下着まで脱ぐの?」
指さす先を見回せば、執事とメイドが数人、そしてランドル。一通り確認し、ハイネルは再び首をかしげた。
「そこでメイドがバスローブを持って待機しているが?」
何か問題が?という顔に、グーデリアンがハイネルの両肩を掴む。
「いや、そこはダメだろう!」
「・・何がダメなのか、わかるように説明してくれないか?」
「僕もわからないぞ。シャワーの前には裸になるだろう。」
「裸が、じゃなくて、こういうシチュエーションで!」
衆人環視の真ん中で、しかも女性が含まれる中で局部まで晒してんじゃねぇよと言いたいのだが、あまりの衝撃に言葉がうまく出てこない。
待てよ、こういうのは普通俺がやらかしてハイネルが止めるんじゃなかったか?とグーデリアンの頭をぐるぐると色々な思惑が駆け巡ってなんだかもうよくわからない。
「ロッカールームとかサウナで普通に裸になるが、何か問題があったか?」
「全く、アメリカ人というのはよくわからないな。」
下着だけでひそひそ話し合う二人にはまったく通じていない。
「アメリカじゃあな、人前でパンツ脱ぐのは病院と彼女の前だけなの!」
グーデリアンは吠えた。なぜか、大きな敗北感を覚えながら。
-その夜。
「ふうん、彼女、か。」
ラボ近くのアパートメントで風呂上がり、ハイネルはコーヒーを淹れながらつぶやいた。
「だからあれば言葉のアヤ!あそこで俺に彼氏って言ってほしかったのかお前?!」
ソファで雑誌片手に寝転がっていたグーデリアンは起き上がり、不服の意を表した。
「別に?第一、私はお前の彼氏でも彼女でもないしな。」
ハイネルはコーヒーと郵便物を片手に、仕事机と小さなベッドのある自分の仕事部屋へ向かう。パジャマの襟元は上まできっちり止めて。
「え、何、今晩やらないの?」
「仕事があるから邪魔をするな。おやすみ。」
あわてて引いてみた袖口は邪険に振り払われて。
-あぁ、ヨーロッパ人めんどくさい!
ドイツに来てもう数年。
そろそろ本気でシュトロブラムスのコールセンターに「フランツ・ハイネルの取扱書」を請求してやろうかと、グーデリアンは今夜も枕を涙で濡らすのだった。
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チャットお疲れ様でした。
確認したらかきかけのままアップしてなかったので、ちょっと足して・・・
裸が、というよりは、ヤキモキするグーが書きたかっただけでした。
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ここはいわゆる同人誌といわれるものを扱っているファンサイトです。
もちろんそれらの作品とはなんら関係はありません。
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パスワードが請求されたら、誕生日で8ケタ(不親切な説明・・)。