グーデリアンがヨハンを送って再び別宅へ戻ると、ハイネルはホームシアターに席を移し、グラス片手に映画を見ていた。ローテーブルにはナッツとドライフルーツ。
フロアクッションに寄りかかるハイネルの横に腰を下ろし、グーデリアンはハイネルのグラスを取りあげた。
「まだ飲んでんのか?・・ってブランデーかよ。さすがに昼間っから飲みすぎだぜ。」
「うるさい。返せ。」
すかさず長い腕が伸びてきてグーデリアンの手からグラスを奪い返す。軽く触れた腕から馴染んだ香りがまとわりついてきて、背骨の辺りになんともいえない感触が走る。
「ヨハンは無事に送ってきたんだろうな?」
「あぁ。ヨハンの下宿って、お前が住んでたとこだったんだな。花壇手入れしていた大家のマム、俺の顔見てびっくりしてたぜ。」
「あそこはラボから近いからな。人気なんだろう。」
「でもさ、野郎であのきれい好きでうるさいマムを口説くのは大変だぜ?さすがヨハンっつーか。めっちゃ素直でいい子だよなぁ。やっぱ遺伝子より育てられ方なんだよなあ。」
「・・ひどい言い草だな。」
「ほんと、女の子だったら絶対結婚申し込んでたね。」
「・・お前にひどい目にあわされるのは、可哀想なシュティール達だけで十分だ。」
ハイネルがドライフルーツを口に運ぶ。酒が入っているせいか、やや口調がやわらかい。
顔を寄せたグーデリアンが唇を重ねると、甘ったるい果物と、強い酒の香りが鼻腔を抜けていった。
「・・こら。昼間っから盛っているんじゃない。」
静止するでもなくやんわりと胸を押され、体が離される。暗がりの中でも口の端に笑みが浮かんでいるのが見て取れた。
「そんなこといって。毎晩、俺の映画見て枕濡らしてるんじゃねぇの?」
スクリーンの中では、グーデリアン扮する落ち目のフットボール選手が、有能な弁護士である妻から別れを告げられるシーンが映し出されていた。
-あなたは結局、自分だけが大事な人なのよ!
子供の誕生日すら忘れた夫の頬に、妻が遠慮のない平手打ちを食らわせる。きれいに切りそろえられた茶色い髪が揺れて乱れる。
「売り上げが悪いと、お前がまたチームに戻ってくるとかいいそうで恐ろしいからな。」
「最近じゃ、アメリカ帰っても『さっさとドイツ帰れ』っていわれるしなぁ。知ってる?、この女優サン。役作りに、俺とお前とのサーキット乱闘シーンを参考にしたんだってよ。」
「・・不本意だ。」
「ははは。」
「・・・・グーデリアン」
「ん?」
「・・・・・別れよう。」
「・・へ?」
まるで愛の言葉をささやく様につぶやかれた意外な台詞に、グーデリアンはハイネルの顔を覗き込んだ。何かの間違いではないのだろうかと。しかし、そこにあったのはいつもの試すような自身満々の笑みではなく、慈愛にも似た悲しげな表情だった。
「私達は、そろそろ別の道をいくべき時だと思うんだ。私にはヨハンがいる。だからお前は、もう・・。」
最後まで言わせずに、グーデリアンは再び唇をふさいだ。同時に腕をつかみ上げ、クッションにハイネルの体を押し付けるようにして固定してしまう。衣類の隙間から差し入れられた手が何を求めているのかは明白だった。
「・・・・やめないか。まじめな話をしているんだ。」
長い口づけから開放され、やや息切れしたハイネルが身じろぐが、鉄のような腕と体の動きをしっかり抑制するクッションとの狭間に埋め込まれるだけだった。
「なぁに?若い愛人ができたから俺なんかもう用済みってわけ?」
満面の笑顔に、アイスブルーの目が不釣合いに冷たく煌く。からかう軽い口調とは裏腹に、さらに体重がかけられる。
一見冷たく見えるハイネルが、実はかなりの世間知らずのお人好しなのは既にチーム内でも知れ渡っている。今回の件も、周囲にはただ窮状に追い込まれた若いメカニックを見捨てて置けなかっただけと思われている程度だ。
そんなことはグーデリアン自身、わかりきってはいるのだが。
「まぁ、人間関係全般が淡白なお前が、いくらかわいくても男相手にガツガツいく姿ってのは、想像できないけどなぁ。でも、麻酔と相性悪いお前が後遺症覚悟でドナーになってやるって入れ込み具合だから仕方ないかぁ。」
「ん・・くぅっ・・」
のんびりした口調とは裏腹に、弱いポイントを的確になで上げられて思わず声が上がる。
「へぇ、芯から嫌いになった相手でも反応するんだ?」
「・・この、卑怯者。」
耳元でグーデリアンがささやくのに目元を赤く染めて抗議するが、長年愛されてきた体は持ち主の意図に反してさらに快楽を求めていく。
スクリーンの中では世界の崩壊が始まり、子供を抱いて雑踏の中を逃げ惑う妻と、なんとか助けようと泥まみれで奔走するグーデリアンの姿がめまぐるしく入れ替わって映し出されていた。
「あっ・・」
はだけたシャツで腕の自由を奪い、クッションに押し付けるように横臥させて足の間に体を滑り込ませる。手元のキャビネに隠していたローションで濡らした指でゆっくり秘所をなでると、ハイネルの体がひくりとすくんだ。
「うーん、久々だから固いかな。」
「いやだ・・やめろ・・」
「暴れると痛いぜ。」
「ひっ・・」
体を傷をつけないように薄い膜をつけた指を注意深く差し入れたまま、もう一方の手が捩る身をやすやすといなし、触手のようにハイネルの前方に絡みつく。逃げ場のない刺激の連続に、ハイネルは数分ももたずに陥落させられた。
休む間を与えず、肩で息をするハイネルの体の下に手をいれて下半身をうつぶせにさせると、グーデリアンは再び狭い場所にローションを垂らした。
これ以上流されまいとハイネルは再び身を捩るが、下半身には手術の麻痺が残る上、一度火のついた身体は簡単にはいうことを聞かない。グーデリアンは今度は前には手を添えただけで、後ろばかりを責め始める。指の本数を増やされ、狙ったポイントを刺激しては達する前に止めることを繰り返すとたちまちにかみ締めた唇から喘ぎがこぼれはじめた。
「あっ・・・嫌っ・・ゃぁ・・」
「こっちは正直だよなぁ。どうして欲しい?」
「・・・・っ・・」
それでもハイネルは固く眦を閉じたまま首を振るが、開放できない辛さに自然と腰が奥を求めて浮き上がると指はするりと逃げていく。苦痛で押さえ込もうとするならば例え腕を折られても決して屈服しないであろうこの強情な体を、もっとも簡単に弱らせる方法をグーデリアンはこの20年で熟知していた。余裕の笑みを浮かべながらじっくりと弄り、じらされた足が軽く震えはじめた頃に、やっとハイネルの口からため息のような哀願が聞こえた。
「いかせ・・て・・」
「どうやって?」
「奥・・もっと奥へ・・」
「指で?それとも俺で?」
意地の悪い問いを耳元でささやくと、赤くなった眼がうっすらと涙を湛えてグーデリアンをにらみつけた。
「ったく、お前が素直になる前に俺が爺になって立たなくなっちまいそう。」
それでも普段は見せてくれない最大の譲歩を存分に堪能したのか、グーデリアンは苦笑しながら眦にキスをし、既に天を仰いでいる己自身を温かい暗がりへと圧し進めた。
じらされ続けたハイネルの体はそれだけで絶頂に達する。クライマックスに差しかかったシアタールームの中ではナイアガラの滝が崩壊する轟音が鳴り響く中、途切れ途切れのすすり泣きが混じった。
「・・・う・・」
「お、・・大丈夫?」
近い場所から自分を気遣う声がする。意識を取り戻したハイネルは、眼前にグーデリアンの肩口があるのに気がついた。体はクッションから降ろされ、ラグの上にグーデリアンの厚い体を敷きこむ形で横たえられていた。
「何か飲む?」
ぼんやりする頭を大きな手が撫で、徐々に首筋から背中に降りていく。
「・・・」
ハイネルが達した後、グーデリアンが抜きもせずに数度か放ったところでハイネルの記憶はブラックアウトしている。昔ならば、それこそ明け方まで開放されなかったことを思えば先ほどの行為は前菜程度にしかならなかっただろう。既に抵抗する気力すらもないハイネルはその手がまた下半身に降りてくるのを予測し、息をつめた。
だが、手はまだ治りきらない腰の傷のあたりにそっと触れると、そこでとまった。
「悪い。無理させたな。痛むか?」
思いがけずにやさしい言葉に、強張った体が少し緩む。
「・・怒って・・いるんだろう。」
乱れる自分を静かに見下ろしていた冷たい目を思い出し、ハイネルは再び背筋に言い知れない寒さを感じた。だが、それを見越したように大きく温かい手がハイネルの体を包みこんだ。
「途中まではね。」
スタッフロールの流れる画面にリモコンを向けると、スクリーンには映画のメイキング映像が流れはじめた。子役の少年を肩車するグーデリアン、夫婦役の女優が叩かれすぎて赤くなったグーデリアンの頬に笑いながらアイスパックをあてているシーン。最後に現れた3人が海岸で遊ぶショットは、まさしくどこにでもある幸せな家族の理想像そのものだった。
「これ見たんだろ。で、頭の回転の速すぎるお前は一人で妄想がコースアウトしたってわけだ。」
すっかり乱れた栗色の髪をくしゃくしゃとかき乱しながらグーデリアンは笑った。目尻の笑い皺が深くなる。その顔に、ハイネルの胸はいいしれない痛みを感じた。
「・・お前は、私なんかに人生を捧げることはないんだ。」
輝く星の元に生まれた人間は、誰にも後ろ指を指されることのないパートナーを得て堂々と祝福されるべきである。子供にしても、ある意味複雑な家庭で育った自分よりははるかに願望が強いのもよくわかる。だがそれは自分と一緒にいる限りは決して得られないのだから。
「・・私は、お前はレッドカーペットを一緒に歩いてやることもできないし、ましてや親にさせてやることもできな・・」
苦く呟いたハイネルの唇にグーデリアンの唇が重ねられ、言葉を奪われた。
「んー、じゃ今度一緒に歩こうぜレッドカーペット。あー、どっちかってーと俺がお前を巻き込んだ、ってのがホントのとこだしなぁ。」
おどけた調子で笑う様子に、胸の痛みがさらに強くなる。わかっているのだ。この男はそんなことにはこだわるたちではないのだから。
-もし自分が社長という責務を負う立場でなければ多少は変わっていたのだろうか。せめて、一介のデザイナーならば-
「お前は・・何を馬鹿なことを・・」
「いいじゃん、馬鹿で。俺とお前、今まで散々不可能だって言われることばかりやってきただろ。お前となら俺はなんでもできる気がするよ。なんならお前の子供だって産めるかも?」
「本当にお前は・・馬鹿だ・・」
「へいへい。」
ハイネルはグーデリアンの肩に顔を押し付けた。
メイキング映像の終わった静かな青い部屋の底で、二人はいつまでも抱き合っていた。
-------------------
続く
フロアクッションに寄りかかるハイネルの横に腰を下ろし、グーデリアンはハイネルのグラスを取りあげた。
「まだ飲んでんのか?・・ってブランデーかよ。さすがに昼間っから飲みすぎだぜ。」
「うるさい。返せ。」
すかさず長い腕が伸びてきてグーデリアンの手からグラスを奪い返す。軽く触れた腕から馴染んだ香りがまとわりついてきて、背骨の辺りになんともいえない感触が走る。
「ヨハンは無事に送ってきたんだろうな?」
「あぁ。ヨハンの下宿って、お前が住んでたとこだったんだな。花壇手入れしていた大家のマム、俺の顔見てびっくりしてたぜ。」
「あそこはラボから近いからな。人気なんだろう。」
「でもさ、野郎であのきれい好きでうるさいマムを口説くのは大変だぜ?さすがヨハンっつーか。めっちゃ素直でいい子だよなぁ。やっぱ遺伝子より育てられ方なんだよなあ。」
「・・ひどい言い草だな。」
「ほんと、女の子だったら絶対結婚申し込んでたね。」
「・・お前にひどい目にあわされるのは、可哀想なシュティール達だけで十分だ。」
ハイネルがドライフルーツを口に運ぶ。酒が入っているせいか、やや口調がやわらかい。
顔を寄せたグーデリアンが唇を重ねると、甘ったるい果物と、強い酒の香りが鼻腔を抜けていった。
「・・こら。昼間っから盛っているんじゃない。」
静止するでもなくやんわりと胸を押され、体が離される。暗がりの中でも口の端に笑みが浮かんでいるのが見て取れた。
「そんなこといって。毎晩、俺の映画見て枕濡らしてるんじゃねぇの?」
スクリーンの中では、グーデリアン扮する落ち目のフットボール選手が、有能な弁護士である妻から別れを告げられるシーンが映し出されていた。
-あなたは結局、自分だけが大事な人なのよ!
子供の誕生日すら忘れた夫の頬に、妻が遠慮のない平手打ちを食らわせる。きれいに切りそろえられた茶色い髪が揺れて乱れる。
「売り上げが悪いと、お前がまたチームに戻ってくるとかいいそうで恐ろしいからな。」
「最近じゃ、アメリカ帰っても『さっさとドイツ帰れ』っていわれるしなぁ。知ってる?、この女優サン。役作りに、俺とお前とのサーキット乱闘シーンを参考にしたんだってよ。」
「・・不本意だ。」
「ははは。」
「・・・・グーデリアン」
「ん?」
「・・・・・別れよう。」
「・・へ?」
まるで愛の言葉をささやく様につぶやかれた意外な台詞に、グーデリアンはハイネルの顔を覗き込んだ。何かの間違いではないのだろうかと。しかし、そこにあったのはいつもの試すような自身満々の笑みではなく、慈愛にも似た悲しげな表情だった。
「私達は、そろそろ別の道をいくべき時だと思うんだ。私にはヨハンがいる。だからお前は、もう・・。」
最後まで言わせずに、グーデリアンは再び唇をふさいだ。同時に腕をつかみ上げ、クッションにハイネルの体を押し付けるようにして固定してしまう。衣類の隙間から差し入れられた手が何を求めているのかは明白だった。
「・・・・やめないか。まじめな話をしているんだ。」
長い口づけから開放され、やや息切れしたハイネルが身じろぐが、鉄のような腕と体の動きをしっかり抑制するクッションとの狭間に埋め込まれるだけだった。
「なぁに?若い愛人ができたから俺なんかもう用済みってわけ?」
満面の笑顔に、アイスブルーの目が不釣合いに冷たく煌く。からかう軽い口調とは裏腹に、さらに体重がかけられる。
一見冷たく見えるハイネルが、実はかなりの世間知らずのお人好しなのは既にチーム内でも知れ渡っている。今回の件も、周囲にはただ窮状に追い込まれた若いメカニックを見捨てて置けなかっただけと思われている程度だ。
そんなことはグーデリアン自身、わかりきってはいるのだが。
「まぁ、人間関係全般が淡白なお前が、いくらかわいくても男相手にガツガツいく姿ってのは、想像できないけどなぁ。でも、麻酔と相性悪いお前が後遺症覚悟でドナーになってやるって入れ込み具合だから仕方ないかぁ。」
「ん・・くぅっ・・」
のんびりした口調とは裏腹に、弱いポイントを的確になで上げられて思わず声が上がる。
「へぇ、芯から嫌いになった相手でも反応するんだ?」
「・・この、卑怯者。」
耳元でグーデリアンがささやくのに目元を赤く染めて抗議するが、長年愛されてきた体は持ち主の意図に反してさらに快楽を求めていく。
スクリーンの中では世界の崩壊が始まり、子供を抱いて雑踏の中を逃げ惑う妻と、なんとか助けようと泥まみれで奔走するグーデリアンの姿がめまぐるしく入れ替わって映し出されていた。
「あっ・・」
はだけたシャツで腕の自由を奪い、クッションに押し付けるように横臥させて足の間に体を滑り込ませる。手元のキャビネに隠していたローションで濡らした指でゆっくり秘所をなでると、ハイネルの体がひくりとすくんだ。
「うーん、久々だから固いかな。」
「いやだ・・やめろ・・」
「暴れると痛いぜ。」
「ひっ・・」
体を傷をつけないように薄い膜をつけた指を注意深く差し入れたまま、もう一方の手が捩る身をやすやすといなし、触手のようにハイネルの前方に絡みつく。逃げ場のない刺激の連続に、ハイネルは数分ももたずに陥落させられた。
休む間を与えず、肩で息をするハイネルの体の下に手をいれて下半身をうつぶせにさせると、グーデリアンは再び狭い場所にローションを垂らした。
これ以上流されまいとハイネルは再び身を捩るが、下半身には手術の麻痺が残る上、一度火のついた身体は簡単にはいうことを聞かない。グーデリアンは今度は前には手を添えただけで、後ろばかりを責め始める。指の本数を増やされ、狙ったポイントを刺激しては達する前に止めることを繰り返すとたちまちにかみ締めた唇から喘ぎがこぼれはじめた。
「あっ・・・嫌っ・・ゃぁ・・」
「こっちは正直だよなぁ。どうして欲しい?」
「・・・・っ・・」
それでもハイネルは固く眦を閉じたまま首を振るが、開放できない辛さに自然と腰が奥を求めて浮き上がると指はするりと逃げていく。苦痛で押さえ込もうとするならば例え腕を折られても決して屈服しないであろうこの強情な体を、もっとも簡単に弱らせる方法をグーデリアンはこの20年で熟知していた。余裕の笑みを浮かべながらじっくりと弄り、じらされた足が軽く震えはじめた頃に、やっとハイネルの口からため息のような哀願が聞こえた。
「いかせ・・て・・」
「どうやって?」
「奥・・もっと奥へ・・」
「指で?それとも俺で?」
意地の悪い問いを耳元でささやくと、赤くなった眼がうっすらと涙を湛えてグーデリアンをにらみつけた。
「ったく、お前が素直になる前に俺が爺になって立たなくなっちまいそう。」
それでも普段は見せてくれない最大の譲歩を存分に堪能したのか、グーデリアンは苦笑しながら眦にキスをし、既に天を仰いでいる己自身を温かい暗がりへと圧し進めた。
じらされ続けたハイネルの体はそれだけで絶頂に達する。クライマックスに差しかかったシアタールームの中ではナイアガラの滝が崩壊する轟音が鳴り響く中、途切れ途切れのすすり泣きが混じった。
「・・・う・・」
「お、・・大丈夫?」
近い場所から自分を気遣う声がする。意識を取り戻したハイネルは、眼前にグーデリアンの肩口があるのに気がついた。体はクッションから降ろされ、ラグの上にグーデリアンの厚い体を敷きこむ形で横たえられていた。
「何か飲む?」
ぼんやりする頭を大きな手が撫で、徐々に首筋から背中に降りていく。
「・・・」
ハイネルが達した後、グーデリアンが抜きもせずに数度か放ったところでハイネルの記憶はブラックアウトしている。昔ならば、それこそ明け方まで開放されなかったことを思えば先ほどの行為は前菜程度にしかならなかっただろう。既に抵抗する気力すらもないハイネルはその手がまた下半身に降りてくるのを予測し、息をつめた。
だが、手はまだ治りきらない腰の傷のあたりにそっと触れると、そこでとまった。
「悪い。無理させたな。痛むか?」
思いがけずにやさしい言葉に、強張った体が少し緩む。
「・・怒って・・いるんだろう。」
乱れる自分を静かに見下ろしていた冷たい目を思い出し、ハイネルは再び背筋に言い知れない寒さを感じた。だが、それを見越したように大きく温かい手がハイネルの体を包みこんだ。
「途中まではね。」
スタッフロールの流れる画面にリモコンを向けると、スクリーンには映画のメイキング映像が流れはじめた。子役の少年を肩車するグーデリアン、夫婦役の女優が叩かれすぎて赤くなったグーデリアンの頬に笑いながらアイスパックをあてているシーン。最後に現れた3人が海岸で遊ぶショットは、まさしくどこにでもある幸せな家族の理想像そのものだった。
「これ見たんだろ。で、頭の回転の速すぎるお前は一人で妄想がコースアウトしたってわけだ。」
すっかり乱れた栗色の髪をくしゃくしゃとかき乱しながらグーデリアンは笑った。目尻の笑い皺が深くなる。その顔に、ハイネルの胸はいいしれない痛みを感じた。
「・・お前は、私なんかに人生を捧げることはないんだ。」
輝く星の元に生まれた人間は、誰にも後ろ指を指されることのないパートナーを得て堂々と祝福されるべきである。子供にしても、ある意味複雑な家庭で育った自分よりははるかに願望が強いのもよくわかる。だがそれは自分と一緒にいる限りは決して得られないのだから。
「・・私は、お前はレッドカーペットを一緒に歩いてやることもできないし、ましてや親にさせてやることもできな・・」
苦く呟いたハイネルの唇にグーデリアンの唇が重ねられ、言葉を奪われた。
「んー、じゃ今度一緒に歩こうぜレッドカーペット。あー、どっちかってーと俺がお前を巻き込んだ、ってのがホントのとこだしなぁ。」
おどけた調子で笑う様子に、胸の痛みがさらに強くなる。わかっているのだ。この男はそんなことにはこだわるたちではないのだから。
-もし自分が社長という責務を負う立場でなければ多少は変わっていたのだろうか。せめて、一介のデザイナーならば-
「お前は・・何を馬鹿なことを・・」
「いいじゃん、馬鹿で。俺とお前、今まで散々不可能だって言われることばかりやってきただろ。お前となら俺はなんでもできる気がするよ。なんならお前の子供だって産めるかも?」
「本当にお前は・・馬鹿だ・・」
「へいへい。」
ハイネルはグーデリアンの肩に顔を押し付けた。
メイキング映像の終わった静かな青い部屋の底で、二人はいつまでも抱き合っていた。
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ここはいわゆる同人誌といわれるものを扱っているファンサイトです。
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