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「気分はどうだ?」
明るいリビングに、大きな紙袋を携えたハイネルが入ってきた。ソファに寝転んでいたグーデリアンは気だるげに手だけをあげて合図をした。

「死にそう・・・ずーっと飯の味はしないし、車酔いしてる感じ・・・」
「免疫抑制剤を打っているようなものか?」
ハイネルがレモネードの瓶とベリーのジェラードを袋から出すと、グーデリアンはのそのそと起き上がり一口含んだ。
「わかんねぇけど・・車酔いと胃痛と二日酔いと全部・・?。あー、このレモネードうまい・・。」
「私が移植で入院中、ヨハンがよく差し入れてくれたんだ。私には甘すぎたが、彼はこのメーカーが一番口にしやすかったとか言っていたな。」
「いい子だよなぁ、ほんと。誰かに似てなくて。」
「一言多い。」
「うわわ、勘弁。」
ジェラードを口に運ぼうとしていたスプーンにハイネルが手を伸ばすと、さっきまでの病人っぷりはどこへやら、グーデリアンはひらりと身をかわした。

「それで、順調なのか?」
「あー、順調順調。リサちゃんにこんな順調すぎるデータじゃ面白くないじゃないって怒られるくらいだぜ。」
「しかし、まさか、本当に子供を作るとは・・」
グーデリアンの隣に腰を下ろし、足を組んだハイネルがこめかみに指を当てる。
「いやなぁ、リサちゃん医学方面強いだろ?。相談したら『遅っそい!』って。ランドルからは『何年かかって技術開発してやったと思っている、無駄になるかと思ったじゃないか。』だってよ。」
「・・まったく、寄ってたかって人の遺伝子をなんだと思っているんだ・・。」
ソファにもたれたハイネルが苦悶の表情を浮かべるのを、グーデリアンは面白そうに眺めた。

ホームシアターの一件からから数ヶ月、ハイネルの神経移植の手術は無事終了し、体力が回復したヨハンもチームへ戻っていた。グーデリアンの映画もそこそこに評判がよく、しばらく平和が続くかと思われたある日。出張でしばらく自宅を留守にしていたハイネルを満面の笑みで迎えたグーデリアンから出た言葉は衝撃的すぎるものだった。

「俺、子供できたから。お前の。」
「は?」
下腹部をさすりながら恥らってみるグーデリアンに、ハイネルは思わず重いアタッシュケースを取り落とし、ずれてもいない眼鏡を指で押し上げた。

ランドル家が極秘で開発していた技術。それは人工子宮だった。
体内に埋め込むことで母体との互換性を持たせ、自然に近い育成が可能となるそれは、本来は病気や諸事情により機能がうまく働かない女性のために開発を開始したものではあったが、ランドルの「男にも対応できるようにならないのか?」の一言により、一部のホルモン剤を補助使用すれば実用できるではという段階まで来ていた。

一方、精子から遺伝情報を抽出し、受精卵様のものを作る技術自体はさほど難しいものではない。しかしこの分野については未知の領域であり、人体へ応用できるかどうかはまだ非常に不安定であるし、何より倫理的な問題から一般に公開できる技術でないことから実用化は困難と考えられていた。

事情を聞き、一瞬にして冷静になったハイネルは鬼の形相でまくし立てた。
子供の立場はどうなるのか。教育は?環境は?戸籍は?
出自についていったいどういう説明をするつもりなのか。
そして何より、グーデリアン自身の体にどんな負担がかかるのかわからないのに、なぜ軽率な行動をとるのか。
泡をふく勢いで詰め寄るハイネルの額にグーデリアンは人差し指を当て、けろりと一言言い放った。
「お前も他所で子供作ってたんだから、おアイコ。」
「う・・」
大変優秀な頭脳を持ちながら、対人駆け引きにおいてはグーデリアンには到底かなわないハイネルは、渋々と出産までグーデリアンの身を自分の監視下に置くこと、最低限の親族以外には決して口外しないことを条件に事実を受け入れたのだった。

「しっかし、順調すぎて立派にツワリまでくるとは思わなかったぜ。アニーがよく気持ち悪いってぼやいてたけど、こんなんだとは思わなかった・・腹がでかくなったらさらにしんどいわよーだってよ。アニー、子育てや仕事しながら3人も産んでんだぜ。マジ尊敬するよ偉大なお姉さま・・。」
ジェラードを食べきったグーデリアンは再びハイネルの膝を枕に横になった。満足な食事がとれないせいでやや細くなった頬を、ハイネルの白い指が撫でる。
「・・勝手に人の精子を使うからだ。本来ならば訴訟か犯罪ものだぞ。」
「ま、手軽に手に入るし?」
すかさず額に拳骨が飛んでくる。
「イッテェ。裁判にしたら、法廷でどんだけお前が好きか延々語ってやるからな。覚えとけ。」
「そんなことをしたら強姦されたと騒いで、一生出てこられないほどの余罪をつけてやるから覚悟しろ。」
言葉と裏腹に、額に置かれたままの拳骨がそっと開いてグーデリアンの視界を半分ほど遮る。
「・・あまり無茶をするな。」
「・・ダイジョーブ。」
グーデリアンは目を閉じてハイネルの手の上に自分の手を重ねる。出会った頃よりも幾分骨ばったこの手が今は何よりも愛おしい。しばらくその感触を確かめてから、グーデリアンはぱちりと目を開けた。
「あっ、そうだ、ハイネル、帰りにラボ寄ったか?」
「いいや。」
「マリーから面白い動画届いてたんだよ。」
勢いをつけて飛び上がり、グーデリアンはテーブルの上のタブレットを取り上げると動画を再生し始めた。

-はぁい、今月のチームニュースの時間でーす
おどけた様子で画面に手を振るルイザ。後ろはテストコースが映し出されているが、そこに止まっているのはレースカーではなく、見慣れたリサの「ちびっこ暴走族」だった。
「・・なぜこれが?」
首をかしげたハイネルに、画面の中のルイザがリポーターよろしく説明を続ける。

-さぁて。わがチームは今月から新しいドライバーを取得しました、その名もーーー
-ちょっと、ルイザさん!なんで俺が教官役なんだよ!こいつの運転むちゃくちゃーー
-あーっ、いいとこなんだからもう少し黙ってな!

「ちびっこ暴走族」の窓が開き、助手席顔を出したのはハイネルが前期にエアレースから引き抜いたスペイン系メキシコ人ドライバー。大きな身振り手振りで窮状を訴える浅黒い肌の少年を、ルイザが一喝する。

-空を飛ぶより楽だって大口叩いていたのはどこの誰だい?。リミッター付けたからまず死ぬことはないから安心しなよ。
-いやいやいや、神経もたないって・・・うわわわわわ、いきなり踏むなヨハン!!

悲鳴とともに急発進した黄緑色の車体はコーナーの胸倉深くを抉り、コース内ぎりぎりを急発進・急制動で走り抜ける。急激な車体制御でロールしかける度に、クルーの笑い声が混じる。
それでもなんとか周回をし、よろよろと戻ってきたちびっこ暴走族の助手席でぐったりした少年が駐車スペースに後ろ向き駐車を指示すると、今度は運転席から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
-ハンドル・・どっちに切るんだっけ?
-はぁっ?お前それでもデザイナー志望かよ!俺、お前に命預けてんだぜ?!
-それとこれとは別だろヘラルド!もういいよ!君には頼まない!えーと・・こっちに切るとシャフトは・・
-そっからかよ!
テンポのいい喧嘩にクルーの笑い声がどっと大きくなる。
-ということで、期待の新人ヨハン君がライセンスを取得するのはだいぶ先になりそうでーす。

ルイザの笑顔できれいにしめられた動画が終わると、ハイネルは呆然とグーデリアンを見た。
「・・・なんだこれは・・」
「だから、ラボ総出でヨハンの免許取得のお手伝い、と。」
「それにしても・・客観的に見てあまりにセンスがないというか・・特になんだあのカーブ前のブレーキ・・」
「お前、ヨハンに対して無条件にベタ甘かと思っていたけど、お前でもそういうこと言うのな。」
「怪我をしたらどうするんだ!ヘラルドにしても一体いくら積んで引き抜いたと思っている?!二人して病院送りなど洒落にならん!」
「でも俺、このタイミングでコーナリングするやつもう一人知ってるぜ?」
「誰だ?」
にやりと笑ったグーデリアンは、ハイネルの眉間に指を突きつけた。
「は?」
「お前、ずっと後駆ばっか乗ってるからな。どの車でもカーブぎりぎりまで抉る癖があるんだよ。」
「リサの車はオートマチックのFFだぞ?そんなもの、同じ運転できるわけが・・・・」
「今までほとんど自転車か公共交通機関なヨハンにそんなんわかるわけないだろ。んで、就職してからはお前の運転ばっかり同乗してたからおかしいとかなかったんだろなぁ。」
「・・なんということだ・・どう教えればいいのか私にもわからんぞこれは・・」
わなわなと震えながらタブレットを握り締めるハイネルの肩を、グーデリアンが笑いながら叩く。
「俺ら、才能以前によっぽど環境に恵まれてたってことだよなぁ。」
「何を気楽に・・・」
「もう、いっそカムアウトしてお前が教えたら?俺とハイネルとヨハンと子供と。家族みたいでいいじゃん。」
意外な申し出に、ハイネルはゆっくりとグーデリアンのほうを見ると、首を横に振った。
「私は・・こんな不自由な世界に彼を巻き込もうとは思わない。いつか言わなくてはと思っていたんだが、生まれてくる子供にも私は表立って関わるつもりはない。」
勉強に立ち居振る舞い、教養と、雁字搦めで当たり前の子供時代を振り返るようにハイネルが呟く。成人したところで要求の形が変わるだけで、ハイネル家の一員であれば、一生生き方に強い制約を課されていかなくてはならない。
この期に及んで、こんなに臆病な自分にグーデリアンはもう愛想を尽かすだろう。いっそ捨ててくれればいいのにと目を伏せながら、ハイネルは重い言葉を紡いだ。

「ま、無理じゃない?」
うつむくハイネルの顔を、にやりと笑いながらグーデリアンが覗き込んだ。
「ヨハンにカムアウトするしないは別にしても、あいつだってなんだかんだでこの業界に戻って来ちまったし。さらにこいつは俺らの子供なんだから、どうせほっといても絶対遺伝子レベルの車バカ決定。ばらさなくてもそのうち自分で気づくぜ。」
おどけた口調で言い、グーデリアンは目を見開くハイネルの左手の薬指をつかみ、キスをした。
「な。俺ら、離れてもくっつくんだからしょうがないんだよ。・・だからさ、お前もそろそろ覚悟を決めろよ。」
ハイネルの顔に泣き笑いのような表情が浮かんだ。
「まったく・・お前はいつも私を駄目にする。」
厳重に纏ってきたはずのプライドや世間体をすべて剥がされ、生身のフランツ・ハイネルをさらけ出される。
「素直に、の間違いだろ?俺はお前が欲しいっていえば太陽を西から昇らせてやるよ。」
グーデリアンがおどけたままハイネルの腰に手を回し、体を引き寄せると、ハイネルのほうから唇を重ねてきた。長かった年月を埋めるかのように腕が絡む。
「・・私の要求は激しいぞ。」
「知ってるよ、何年一緒にいたと思ってんだ。」

-物語は今やっと、始まったばかりだ。


----------------------------------------------完

すみません帳尻あわせまくりで。
そして表サイトのほうの子供ネタにつながると。

精神的に満足ならそれで・・というパターンが多い気がするのですが、ハーさんそれじゃ納得しないんじゃない?と常々思っていたので。だからといって、染み付いた雁字搦めの常識を振り切るパワーもなく。
グーさんとしては幸せなら結構そんな形とかどうでもいいんだけど、ハーさんが悩んでるのには気づいているので、どうしてやろうかなと。
二人そろえば無理も道理もねじ伏せてくれるでしょう。

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