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「お、うまそう。ブイヤベース?」
「アクアパッツァ。」

ガスコンロの上の、厚手の平鍋がコトコトと音を立てている。
ネクタイを外したワイシャツの上にエプロンをつけたハイネルは、バゲットに薄くニンニク入りのオイルを塗った。
「どう違うのよ。」
グーデリアンはダイニングの小さなテーブルにクロスを敷き、カトラリーとグラスを用意した。
「サフランの有無じゃないか?」
「ふーん?」
グーデリアンが皿を持ったままサラダのルッコラを一枚つまみ、口に放り込む。

ハイネルのアパートメントにグーデリアンが転がり込んできて数カ月、自身の栄養状態にはほとんど関心がないがさすがにドライバーを放っておくわけにはいかないと、最近ハイネルは車で30分ほどの実家が雇っているコックに料理の下ごしらえを、さらに忙しい日は完成品を頼むことが多くなっていた。
ほとんど自宅で食事をすることがない多忙な父と子達のため、「何のために雇われたのかわからない」とぼやいていたコックはこの申し出に非常に喜び、配達時には冷凍庫に非常食として温めるだけで食べられるスープやデリ、自家製のコンフィチュールなどをついでに叩きこんでいくのだった。

「こら、つまみ食いしてるんじゃない。」
「後ろに目でもついてんのかよお前は。」
帰宅して30分ほどで、アクアパッツァと軽くトーストしたバゲット、白チーズと生マッシュルームとルッコラのサラダ、炒めたポテトに白ワインを添えて、瞬く間に軽い夕食がテーブルに現れた。

「俺、昔は魚はサラダと思ってたんだよなぁ。」
「・・はぁ?」
「俺んち、内陸だろ?毎日食い物はほぼ肉なわけ。たまに空輸で届くクラムとかエビは高級品でさ、メインっていうよりは、オードブルにちょこっと乗っかってくるトッピング扱いだったんだよ。」
「魚は肉と同等のプロテイン系食材だ。大体、多少怪しげなオイスターバーでも平気でガツガツ食らっているくせに。」
「お前、基本生もの苦手だもんな。前、ランドルに生牡蠣勧められてすげぇ困ってたよなぁ。」
「・・それ以上いうとデザートはなかったことにするぞ。」
「あ、ごめんごめん!!」

与太話とともに、食事は瞬く間に胃袋に消えた。
空いた皿をシンクに置き、冷蔵庫から冷えたフルーツカスタードを取り出しながら、ハイネルは何度か視線を壁の時計にやった。その様子をグーデリアンはテーブルに肘をついた姿勢で憮然と眺めていた。
「どうした、小骨でも噛んだのか?」
「いや、コックさんの下ごしらえもハイネルの味付けも完璧だった。だけどなぁ・・・」
「?」
グーデリアンはわざと時計のほうを見ながら、つぶやいた。
心の中ではまさか自分がこっち側になるなんて、と、女々しい気持ちを笑いながら。
「もう俺そろそろ限界・・・・。なぁ、今日もこの後仕事?」
「仕方ないだろう。」
再び席に着いたハイネルもため息をつきながらデザートを口に運び始めた。


発表直前の車に、担当者の代わった交通省からイチャモンに近い難癖がついたのがレースシーズンの終わった直後だった。
その内容に激怒した社長、ゲオルグ・ハイネルはスイスの山奥でささやかなスキーオフを楽しんでいた息子を即座に社用ヘリで召還し、有無を言わせず改良責任者として投入した。
スーツに着替える暇すら与えられなかったフランツ・ハイネルが負わされたミッションは言葉にすると至極簡単で、次のシーズンが始まるまでに車を改良するなり担当者を懐柔するなり、なんでもいいからある程度の成果を見せること。
その剣幕は、いつもは社長こそわが命と公言している社長秘書達がさすがにそれはと割って入ろうとするほどだったという。


「・・まぁ、予算が人質だからな。いつものことだ。」
「つってもさぁ、オフシーズンはこっちの開発とかもあるでしょ。」
「父も、忙しいのは知っていて私を投入するんだからよほど切羽詰まっているんだろう。仕方ないさ。私も父も、会社の部品の一つだ。」
「んもー。俺、最近欲求不満でしょっちゅうお前の夢見るんだぜ?」
「・・・は?」
食洗機に皿をセットしているグーデリアンを、袖口をするすると戻していたハイネルが振り返る。
「正確には、お前の形をした何か、だけど。すげぇ素直で可愛いしなんでも俺の言うこと聞くんだよ。」
「・・ついに頭が逝ったか。・・一度、精密検査でも受けて来い。」
ハイネルは大きなため息をつき、上着と車のキーを片手に持つと再び会社へと戻っていった。


-いや、本当に出てくるんだよなぁ

さほど広くもないアパートメントだが、ぽつんと一人で取り残されると急に寂寥感が迫ってくる。外の風がやたらと強く感じる。夜更かしをする気にもなれず、グーデリアンは早々にベッドに入った。こういう晩はアレが出てくることが多いのだ。

-あ、来た

目を閉じてしばらくすると軽くドアが開く音がして、ハイネルの顔をした可愛い何かが擦り寄ってくる。ベッドの上掛けをそっと剥ぎ、しなやかな肌が触れる。
その質感から匂いから、グーデリアンは最初はハイネルのサプライズだろうと信じて疑わなかった。
しかしそのハイネルによく似た生き物との行為は、本物とはまったく違っていた。
グーデリアンの要求のまま体を合わせ、素直に愛情表現をする。時にいじらしい顔を見せたかと思えば絶妙な手技や舌技でグーデリアン自身を愛撫する。何より、グーデリアンがしたいと思えばどんなに過激な体位でもくだらないリクエストでも相手をしてくれる。
決して本物ではないとわかっていながら、グーデリアンはここしばらくその何かとの逢瀬を楽しむことも多かった。

が。

「んー・・・・・?」
「どうした?」
ネコ耳裸エプロンという、ありえない格好のハイネルに押し倒されながら、グーデリアンは首をかしげた。上目遣いで頬を軽く上気させたハイネルは恐ろしく色っぽい。が、何かの違和感があるのだ。
「いや、ねぇ。ちょっと待って。」
グーデリアンは片手でハイネルを軽く押しとどめると、上体を起こした。
「・・次は何がしたい?お前の望みはなんでも聞いてやるぞ?」
腿の上に足を開いて座り、うっとりした目で呟かれる。普段だったら申し分のないシチュエーションなのに何が不満なんだろう。
-確かこの感覚、ハイネルと付き合う前はよくあったような・・
グーデリアンはふと、その感覚にぴったりと思い当たる言葉を思い出した。

「・・あ、そうか。」
「?」
「飽きた」
「な・・?」
思いがけない言葉に、ハイネルの姿をした何かは整った片眉をひくりと上げた。

「こんなバカげた格好までさせて、何を言ってるんだお前は!お前の好きにあれこれさせてやったのに!」
「いやもう、そのへんはすっげぇ楽しかったんだけどね。一通りやったら、満足した。」
ぺらりとエプロンの裾をめくりながらグーデリアンは言った。
耳はともかく、エプロンは意外に似合わないなぁなんて、本人が聞いたら即跡形もなく処分されてしまいそうな事を考えながら。
「解せん。私とあいつとどこが違うというんだ。お前の好きな体と声のはずだ。」
指を突きつけられ、あぁ爪の形まで同じだと冷静に認識する。

「あー・・なんかそういう上からのモノイイするとすっげぇお父さんに似てるよなぁお前。」
「・・年上が好みか?じゃあゲオルグ・ハイネルの姿に・・」
「いやいやいやそれは勘弁してちょーだい。ますます萎えそう、俺。」
「女にもなれるぞ?」
くるりと回ると、フランツ・ハイネルの雰囲気を残したまま体は女性のカーブを描いた。
「へぇ。」
「ちなみに、乳房も臀部も思い通りに。触ってみろ。」
グーデリアンが手で撫でてみると、控えめだった胸がふっくらと盛り上がり、臀部と腰のコントラストが際立つ。
「なるほどねぇ、確かに理想のサイズかも。」
牝馬を品定めする手つきで触るが、そこには既にこれとどうこうしたいという感覚はなく。
煮え切らないグーデリアンに、ハイネルはついに大きな声を上げた。

「私はインキュバスだぞ!これはお前の深層心理に潜む理想のフランツ・ハイネルなんだ!なのに何が不満なんだ!?」
正体をばらしてしまった相手に向かって、グーデリアンは腕組みをして考え込んだ。
「なんかね、スリルが足りないっていうか。こう、うっかりすると即寝首かかれそうなあの緊張感とか?絶対俺だけなんか見てなくて、俺がすげぇ気をつけてないとすぐあちこち行っちまう危なっかしさとか。」
「めんどくさいだけじゃないか。」
「あー、めんどくさいわな、確かに。セックスはいつまでも慣れないし。口もヘタだし。いいトコ突くとそれはそれで必死で暴れるししがみつくし。」
生傷の絶えない太い腕を眺めて、グーデリアンは笑った。周囲は喧嘩のケガだと思っているが、最近ではベッドの中でつけられたキズのほうがはるかに多い。もっとも、つけた本人は色々と耐えるのに必死で覚えてすらいないのがまた癪に障る。
「でもな、そんなのが色々投げ出していい顔見せる時がサイコーとか思うわけよ。多分。」
「・・マゾヒズム嗜好か?」
「そうかもな。あー、ハイネル限定で。」

「大体、フランツ・ハイネルの頭の中を覗いてみたらほとんどが車とか会社のことばかりだ。お前のことなんか片隅にあるだけだったぞ。」
「ははは。ハイネルらしいねぇ。つか、俺のスペースがあっただけマシってね。」
反撃に出たインキュバスに対しても焦る気持ちはなぜか起こらない。
「おまけに、その欲求なんて朝起きてお前とキスをして、一緒に食事して、夜寝る前にハグをする。そんなものだ。お前の性欲が満足できるとは思えない。60代の夫婦でももうちょっとマシな妄想をするものだ。」
「俺も似たようなもんだぜ。」
「ちっ・・せっかくいい餌場を見つけたと思ったのに・・・何がアメリカの種馬だ!何が全米が泣いただ!だからハリウッドの広告には信憑性がないんだ!!」
インキュバスは悔しそうに唇をかむと、捨て台詞を山ほど吐いて煙のように消えていった。
「はは。最後のところはハイネルらしかったな。」
とりあえず今夜はいい夢が見られそうだと、グーデリアンは暗闇に向かって手を振った。


次の朝、グーデリアンがコーヒーをいれていると、ハイネルが憮然とした顔でダイニングに顔を出した。
「・・・・・・・・・・・・・」
「もうちょっと寝ていても大丈夫だぜ?」
「・・昨日の夢に、お前が出てきたんだ。」
「ふーん。もしかしてハイネルも欲求不満ー?」
「お前と一緒にするな。第一、夢の中のお前は私に対してさんざん可愛げがないだのセックス下手だのめんどくさいだの!」
「ええええ?それ、俺のせいじゃないし!!!」

-あいつ、仕返ししに行きやがったな!


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ちょっと脱線で

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