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その日、シュトルムツェンダーのラボは思いがけない珍客に湧いていた。

「ハロー、野郎ども、元気ぃ?」
「おーっ!なんだジャッキー、生きてたのかよ!」
「生憎、しぶとさには定評があるんだぜ。」
「とっくに彼女に刺されたんじゃなかったのか!?」
「2-3回は刺されかけたかなぁ。」
「手癖悪くて俳優クビになって、またレーサーでも始めるつもりか?」
「もうやだね。今はきっついトレーニングなしで、美女に囲まれて暮らせるんだぜ?そんな生活、誰が引退するかよ。」
「本っ当に相変わらず男の敵だなお前!」
カフェテリアの真ん中でひときわ目立つ小麦色に焼けた大男は、あちこちから飛んでくるパンチやラリアットにぼこぼこにされながら目尻に深い笑い皺を刻んだ。

「じゃ、俺ハイネルのとこ行ってくるわ。」
「行ってなかったのかよ。まずそこ行けよ。」
「ハイネルさんさっき、ディレクタールームに見えましたよ。」
「喧嘩すんなよー!」
「キスするなよー!」
「そろそろ刺されてこいよー!」
「・・って、いい加減にしろよお前らぁ!」
笑いながら見まわすスタッフは半分ほどが入れ替わっているらしい。知った顔は容赦なくいじり倒してくるが、遠巻きに見守るスタッフの中には知らない顔がちらほら見える。その中にグーデリアンは、ふと気になる面影を見た。
「・・・んなわけないか。」
再びグーデリアンは笑顔を作り、コーヒーを二つ持って何度往復したかわからない長く明るい廊下を歩きだした。

40歳間近になって本格的に忙しくなってきた本社業務のため、ハイネルはスーパーバイザーを退任してデザイナーとテクニカルディレクター業務のみに絞っていた。
部屋に入ると何やら携帯電話で話をしていたが、グーデリアンの姿を見ると唇に人差し指を当てて見せてから、おもむろにスピーカー設定に切り替えた。
途端にスピーカーからよく知ったキンキン声が聞こえてきて、グーデリアンは思わず笑みを浮かべた。

「ちょっとお兄ちゃん!リサがちょっとピアノヘタだからって、『フランツ・ハイネルのほうがうまかったな。ハイネル家の娘なら革命とか普通に弾けるのかと思ってた。』とか言うのよあいつ!ショパンもリストもさらっさら弾けるお兄ちゃんと一緒にしないで欲しいわ!」
「あいつのことだから、悪気はないと思うが。」
「わかってるからタチが悪いのよ!」
「まぁ、私とリサでは手の大きさが違うから。」
「でしょ!?ショパンもリストも男じゃない!?」
「しかし、お前はもう少し真面目に練習をしていれば、ピアノ教師もあそこまで心を痛めることもなかったと思うぞ。」
「う・・・。」
「とりあえず。私がちょっと考えたらどうかというのをお互い無視して突っ走ったのだから、3か月は我慢しなさい。」
「えーっ!」
「来客が来たから切るぞ。」
「もぉーっ!」

最後になにやら叫ぶ声を無視して通話を切ったハイネルは、苦笑しながらグーデリアンのほうを向いた。
「・・2日に1回はこんな感じだ。」
「若いねぇ。」
ハイネルにコーヒーを一つ手渡し、グーデリアンはデスクの端に腰かけてもう一つのコーヒーをすする。
「まさか、リサちゃんとランドルが結婚するとは思わなかった。」
「まぁ、年も近いし、世間から見れば家柄的にも順当と思われているようだが。」
「ランドル、スゴウのアスカちゃんといい、もしかしてあぁいう、ハネッかえりの強いタイプが好みなのか?」
「さぁ。」
見目も麗しい二人の結婚は現代のプリンスとプリンセスと取り上げられ、盛大な結婚式が行われた。しかし既にシュトロブラムス社内で地位を確立していたリサ・ハイネルは結婚後もその立場を変えることなく仕事を続け、公共の場ではランドル家次期当主の嫁ではなくハイネル家の一員として参加していた。

「昨日は、ランドルからはリサの素行について長電話がきた。まさかハイネル家の子女がカウチでポテトチップス片手に寝転がっているとは思わなかったんだと。」
「はっはー。で、あんたなんて言ったの。」
「納品時に一応、難ありだと伝えておいたからな。今さら返品不可だと言っておいた。今朝は父からランドル家の資産管理のいい加減さについてクレームメールがきた。いい加減、喧嘩に私を仲介するのはやめてほしいんだが。」
「ランドル家を乗っ取るつもりなのかね、リサちゃんは。」
「ガンガン子供産んで、一番優秀な子をシュトロブラムスの跡継ぎにするとか息巻いている。目指せマリア・テレジアだと。」
「それまでもつのかねぇ。世紀のカップルスピード離婚の裏に潜む経済界の闇!とか。」
いかにもありそうなゴシップ誌の破局見出しが眼に浮かび、グーデリアンは喉で笑った。

「そういやシュトルムツェンダー、今度の新型いい感じだったよな。初見2位って、成績としてはまずまずじゃない?」
「少々口惜しい。来年はもう少し改良して一番上を獲るぞ。」
やや眉をしかめ、ハイネルは一番上の引き出しを開け、中からシナモン味のティービスケットを一つかみとりだした。机の上に盛り上げ、一つは手にとってフィルムを開き、口に運ぶ。
「ふふーん。俺が乗ってやろうか?」
「その見てくればかりの筋肉でどうするというのだ。」
「だって俺、やっと近未来ヒーローものの撮影がクランクアップしたばかりだもん。すげぇよ、俺の車、今度は空を飛ぶんだぜ。」

30歳を超えて面白そうだからと出たハリウッド映画で好評を得た勢いで、グーデリアンは意外にもあっさりとサイバーフォーミュラを引退し、かねてより好きだった映画の俳優として銀幕デビューを果たしていた。
『俺は、ヒーローでなくっちゃいけない宿命なの。』
サーキットから銀幕へ、場所は変わっても常に世界の中心で輝く男はそう言って笑った。

「非科学的だな。」
「言うなって。世界のヒーロー、ジャッキー・グーデリアーーーン!だぜ?」
「それよりは、以前の、別れた妻から押し付けられた子供を葛藤しながら育てていく父の役のほうがよかった。」
「あー、あれね。やつれた感じ出すのに、ダイエット厳しかったんだぜ?」
ビスケットを一つ取り、グーデリアンも口に放り込む。シナモンの香りと、ややぱさつく懐かしい味が広がり、苦いコーヒーと補い合って繊細な風味が生まれる。
「それが出来るならなぜレーサー時代にやっておかない。」
「いやまぁ、それが出来てたら苦労しないっていうか、もしかして、案外見てくれてる、俺の映画?」
「たまたまだ。」

シーズン半ば、グーデリアンからレーサー引退を切りだされた時、ハイネルは引きとめも賛成もしなかった。ただ、自分が引退する際にそうされたように、静かに相手の選択を受け止めた。
そうと決めたグーデリアンの行動は早かった。
それまで自身が表彰台に登ることばかりに重きを置いていた男がそれまでの経験値を駆使し、徹底的にルイザのサポートに回った。その姿にチームオーダーが疑われたが、囲み取材には本人もチームも、あいつが勝手にやっていることだからと笑い飛ばして。

その結果、ルイザは女性初のワールドチャンプに輝き、グーデリアンはそのシーズンの最終戦をしれっと表彰台の一番上で迎え、長かったレーサーとしての人生を終えた。
最初はついにアメリカの星失墜かと騒いでいた世間は、あまりにも出来過ぎたシナリオに喝采を送らざるを得なかった。
ルイザ自身は、「グーデリアンじゃなくても勝てるマシンが作りたかったって言われちゃ悔しいんだけど」と苦笑しつつ、「でもさ、グーデリアンが最後に監督に結果を残してあげたかったんだから、そこはのっかっとかなきゃ女がすたるわよねぇ。」と、左右から祝福のキスを受けながら艶やかにほほ笑んだのだった。

「で、いつまでこっちにいるんだ?」
「1か月くらいかなぁ。時々は取材とか番宣あるからNYへ帰るけどね。」
「そうか。」
「久々にハイネルの手料理食べたいな。ミートボールの入った豆の煮込み。」
「あぁ、今日は早く帰れるから、材料だけ揃えておいてくれるか?あと、新酒がそろそろ出ている。」
「いいよ。」
ハイネルの顔から眼鏡を外し、机越しに軽くキスをする。
薄く目を細めたその表情に、グーデリアンはやはりさっきカフェで見た気になる面影と重なる気がした。
「あ、そうだ。スタッフかなり変わってんだな。」
「そうだな。お前がやめて3年目だからな」
「なんか若い子でお前によく似た子いたぜ。親戚とか?」
眼鏡を取り返し、ウェスで拭いていたハイネルは一瞬動きが止まった。
「・・それはもしかして、金髪で茶色の眼の?」
「そうそう。」
「・・・・・・・・・・・・まぁ、家で話す。」
再び眼鏡をかけて、ハイネルはグーデリアンに向かい、しっしっと追いやる仕草を見せた。

----------------------------つづくかな

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