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結局、ハイネルはぽつぽつと一皿をきれいに胃に収めた。
陶磁器のような白い肌に血色が戻り、ミルクティを飲む唇が赤く湿っている。

このままもう一度ベッドへ・・と言いたくなるのを3枚目のトーストと一緒に飲みこみ、グーデリアンは言う。
「片付けとくから。」
「あぁ・・ありがとう。」

デザートにバナナをほおばりながら、すっかり空になった皿やグラス、調理器具をざっと水で流し、グーデリアンは食洗機にすべてを突っ込んだ。
テーブルに出ていた牛乳を冷蔵庫に戻す時、ふと手が止まった。
「ママ・マート特製低温殺菌牛乳」
そういえば、この牛乳が胃袋をつかむきっかけだったんだよなと。
まさか牛乳ってなぁ・・と、一人笑いながらグーデリアンは冷蔵庫をぱたんとしめた。

それはまだ二人が別のチームで走っていたころだった。
最初は、ちょっと気になるドライバーがいるなという程度だった。
それがお互いだんだんと頭角を現し、いつも表彰台を争うようになった。
メディアからは、ライバルですか?と聞かれるものの、ほとんどプライベートでの絡みはなく。
プロフィールを検索すると、ドイツ人だということは分かったが、言葉がわからないというわけではなさそうなのに、声をかけてみてもそっけない返事。
ドライバーの中にはたまに、レース以外にはほとんど興味がないという人間もいるからそんなもんかなと思いつつも、年が近いからなのか、なんとなくあいつと話してみたいと思う気持ちをグーデリアンはずっと持ち続けていた。

ある日、アメリカでのレース中、何を思ったか、グーデリアンの両親から大量の差し入れが届いたことがあった。
中身は自社経営「ママ・マート牧場」からの牛乳とクッキー、チーズ、その他もろもろ。
この暑い時期に何考えてるんだよ!出先だよ!と、即行親心をわからない息子のテンプレート電話をかけてみたが、冷蔵トラックのついでだし、お世話になってるチームの人に分けなさいと、これまた息子心なんて気にしない母親らしい返答をされただけで、かえってぐったりした。

そんなわけで、グーデリアンは筋トレよろしく、サーキット中のチームに牛乳を配布して回る羽目になった。
どのピットでも大笑いされつつ快く引き受けてもらったが、その度にママ・マートと自分の関係を説明する羽目になり、なにやら親の広告戦略にのせられた気分で、やっと親離れしたと思っているお年頃の青年と
してはちょっと傷ついた。

当然、例の気になる奴のチームへも。
あまり会いたくない気はするので、ざっと見まわしてレーシングスーツ姿がないことを確認してから近くのスタッフに声をかけた。
やはりここでも快く受け取ってもらい、ついでに茶化された揚句、スタッフは奥に声をかけた。
「おーい、フランツー」
「・・はい?」
「牛乳もらったんだ。これ、お前よく飲んでるやつだよなー。」
車の陰から顔を出したのは、まさかの例の奴。
どうも、スーツではなく整備用ツナギを着て、クリップボード片手に何かの作業をしていたらしい。
手袋を外し、会釈しながらこちらにやってくる姿に、グーデリアンはなにやら動悸が激しくなるのを感じた。

「ほれ。」
「あ、本当ですね。なぜ牛乳?」
スタッフにガロン瓶を渡されて、ハイネルは首をかしげた。
「グーデリアンの実家の牧場だってよ。」
「まさか、ママ・マートの・・?」
自分のほうを振り向いたハイネルの瞳が緑色なのに初めて気がついた。
細い首筋が近くで見ると妙に色気があって、思わずおどけてごまかした。

「あー、俺んち、スーパーやってんだわ。ドイツ系で牧場からスタートだから、特に乳製品と肉が好評みたいな?って、なんでママ・マート知ってんの?」
「ママ・マートの自社開発商品は結構食べられるものが多いから・・」
「フランツはどうも転戦先の食事が合わないのか、よく牛乳とビスケットなんかで済ませてしまうんだ。特にアメリカだとひどいもんで。だから上にばっかりは伸びるのに、いつまでもやせっぽち。」
「うわ!」
勢いよく背中を叩かれ、見事にひょろっとグーデリアンのほうに倒れ込む。
すぐに体制を整えるが、ほんの一瞬、ハイネルの体重がグーデリアンの腕にかかった。
「・・失礼。」
「平気平気。」
まだまだ成長期で、最近特に無駄にでかくなったと言われることが多いグーデリアン自身だが、ハイネルの目線は確かにもう一つ高いところにあった。
ハイネルはスタッフのほうを向き、抗議の声を上げる。
グーデリアンは、なんだかこの場から逃げだしたい気分にすらなった。

「私は、普通に食事がしたいだけなんですよ。なのにアメリカときたら、いつもTooMuch!
スーパーに材料を買いに行っても、バニラ風味だとか生クリーム入りだとかよくわからない牛乳ばかり。」
「アメリカで、アメリカ人のまん前で遠慮なくそれだけ言えるお前は大物だよ。」
スタッフ自身もアメリカ人なのか、笑いながら牛乳を保冷庫に突っ込んでいる。
「まぁ実際、どうかなって食い物も多いし、ママ・マートがなかったらお前とっくに帰国してたよな。」
「そうなの?!」
思わず聞き返したグーデリアンに、ハイネルはあわてて否定した。
「大げさだ!」
グーデリアンはその時ほど、実家のありがたみを痛感したことは後にも先にもなかったと思う。

・・そんなこともあったよなぁと思いだし笑いをしながら、リビングでテレビのニュースを見るともなく流していると、やがてきっちりとスーツを着こなし、いつも以上に髪をしっかりセットしたハイネルが姿を現した。
「出かけるぞ。」
「んー、行こうか。今日は遅いの?」
「ちょっと遅い時間に電話会議があるな。」
気力と生命力と自信にあふれ、静かだが迫力を感じる姿にぎゅっと抱きしめたくなるのをこらえながら後を追う。
若くして、非の打ちどころもない実業家で技術者で経営者で、おまけに自分に匹敵するドライバーで。
この芸術品のような存在のうちのいくらかは、自分の作った食事で出来ているのだと思うと、世界に誇る仕事をしている気分になるのだった。



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できるだけ明るくて考えなさソーで恥かしめのスーパー名を考えるところをがんばりました

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