忍者ブログ
Admin*Write*Comment
404 filenotfound
[26]  [21]  [23]  [19]  [18]  [16]  [17]  [15]  [14]  [13]  [12
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

世界を移動する仕事についていながら、ハイネルには、体質に大きな問題点を抱えていた。

実は車に酔いやすい。

正確に言うと、数人を除いて、他人の運転する車ではかなり酔いやすい。
酔う、という現象は、実は神経の問題ではなく、主に「不安」という要素によるところが多い。
自分が運転するシュティールがどれだけ揺れようと飛ぼうと全く問題はないが、多くのドライバーの運転では車の性能と運転技術について不安を感じ、一気に三半規管がぐるぐる回り始めるのだった。
トランスポーターのような大きな乗り物ならまだしも、否応なく視界が広がる乗用車においては、慣れた実家の運転手以外ではほとんどNG。
よって、移動は出来るだけ自分の運転で行う、というのが常になっていた。


シュトロブラムス本社の玄関から出てきたハイネルは携帯電話をのぞきこんだ。時間は12時になろうかとしている。この分だと、13時の約束には余裕を持って到着できるだろう。
ついでにメールを確認していると、目の前に銀色のスポーツカーが滑りこんできた。
「お待たせ。」
「あぁ。」
ハイネルはスーツの上着を脱ぐと、スポーツカーの助手席にするりと体を滑らせた。

「昼は食べたのか?」
シートベルトを締めながらハイネルはかばんを足の間に立てかけ、脚を伸ばした。
狭い乗り口から潜るように乗りこむが、スポーツカーの足元は意外に広い。
上着を座席の後に放り込もうとすると、そこに白い紙袋を見つけた。
「なんだ・・?」
「俺は食べながら来たよ。その袋の中に、車で食べられそうなものをもらってきた。」
ドリンクホルダーにはプラスチックのカップが刺さっており、ピーナツバターを添えたニンジンとセロリのスティックと、ストローの刺さった、なにやらピンクの飲み物が置いてある。
「シェイクか?」
「まさか。ストロベリーとヨーグルトのスムージー。袋の中にハンバーガーあるからちょうだい?」
セロリとニンジンをぽいっと口に放り込み、カップを重ねて場所を開ける。
ハイネルが覗いた紙袋の中には、銀色の包みと、白い紙箱とフルーツの入ったカップ、飲み物が入ったマグボトルと水のボトルが入っていた。

ハイネルのラボには食堂件カフェがあり、24時間、適当な飲み物と軽食、果物や菓子などがつまめるようになっていた。キッチンスタッフがいる昼には温かい料理を出し、忙しいスタッフ向けにランチボックスにも対応してくれる。
夕方には冷蔵庫にスープやサラダ、夜食用のサンドイッチなどを適宜ストックしておいてくれるため、気がつけば3食カフェで食べているスタッフも結構いた。

独身男性ばかりのファクトリーで、食生活は健康管理における重要な問題点だとハイネルは考えていた。
(自分のことは棚に上げて)
肉体労働がメインのスタッフはつい肉肉肉!とシンプルかつ脂っこい食事に偏り、コレステロール値や血圧の新記録を樹立する。一方頭脳労働スタッフたちは甘いものとカフェイン中毒になり、ダストボックスはお菓子の包み紙とコーラのペットボトルで常に山盛りになっている。
そんなことでワールドチャンプが獲れるか!と、福利厚生の一環として、無料で健康的な食事を提供することにしたのである。
もっとも、キッチンスタッフにとって一番ツッコミどころがあるのはハイネル自身の食生活であり、誰よりも偉いはずの若い監督が時々自分の母親ほどの年のパートのマダムにお小言を食らっているのを、皆が目撃していたりする。

銀紙を半分はがし、グーデリアンの手に渡す。パドルシフトで器用にギアを変えながらグーデリアンは大きな口でハンバーガーをほおばり始めた。
ハイネルが白い紙箱を開けると、中身はヌードルのようだった。緑色のハーブとエビ、豚肉などが入っていてピーナツなどが散らしてある。
「ミーゴレン、か?」
「えーと、パッタイ風とか言ってたかな。」
フォークで下から混ぜるとふわっとライムとコリアンダーの香りがたった。ハイネルは一口ほおばると、一瞬首をかしげた。
「どうよ?」
「・・酸味はさっぱりしていていいんだが・・コリアンダーは減らしたほうがいい。青臭い。」
「お前、実は好き嫌い多いよな。またマリアおばちゃんにいつも同じものばかり食べてるって怒られるぞ。」
「うるさい。」
実のところ、ハイネルには出来るなら食べたくないものが結構あった。
ピーマンのほか、生のハーブ類、酵素の多い果物、ねっとりと甘いドライフルーツやマジパン菓子から、殻付き甲殻類まで。
大っぴらにあれが嫌いこれが嫌いと言っているわけではないし、一応常識ある大人なので会食やパーティーで出されればおとなしく口に入れるが、プライベートに近い食事をする際にはそのあたりが大きく露見する。
二人きりの時に至っては、用意した朝食からパセリやチャイブのかけらを丁寧につまみだす姿に、グーデリアンは子供かよと呆れたものだった。
それでもなんとか一食を胃に収め、次にフルーツのカップを開けるとまずピックでキウイを刺し、信号待ちの間にグーデリアンのほうへ差し出す。それが大きな口へ消えたのを確認し、安心したように林檎やオレンジを食べ始めた。

「今日の仕事は何時頃終わるの?」
「一時間程度で終わると思う。ラボに帰るのが15時くらいになる。」
食後にキシリトールのガムを噛みながら、ハイネルは精一杯シートをリクライニングさせた。
たださえ足りていない睡眠時間を補うためなら運転手つきのセダンで仮眠を取りながら移動するのが一番なのだが、不便な体質のためそれも利かず、2シーター車を自分で運転していくのが常になっていた。
(もちろん周囲は止めようとしたが、そのほうが早い、といわれれば反論できない。)
そこで、最近では時間さえあればグーデリアンが送り迎えをすることが増えていた。

「午前中に俺が大体データ取り終わってるから、急がなくていいと思うよ。」
「トレーニングは?」
「待ってる間にそのへん走っとくよ。今日の仕事は何?」
「高級スポーツモデルの部品の一つが、製造がうまく回らず、困っているらしい。小さな町工場の職人技だからばらつきも多いのだろうが、その精度がないと困るんだが・・。」
スポンサーと引き換えに、オフシーズンにはシュトロブラムスの仕事も請け負っているハイネルだが、ハイネルの父は、意外にも地味な仕事を回してくることが多かった。
採算の合わない工場の改善、欲しい精度が上がらない部品の製造方法の改良、リコール原因の調査など。
新車のモデリングやエンジン開発などならほぼ問題なくこなせるはずのハイネルにそんな地味な仕事をと思うが、シュトロブラムスが確実な収益を上げ、従業員を養うための大切な仕事を任せることで父は後継者としての自覚を促しているのかもしれない。
実際、専門的知識がありながら視野が広く、広い人脈と行動力を持ち合わせた息子は父の依頼に迅速に結果を出し、重役たちに対して実力を示すことで自然と発言力を強めて行った。

「車一つに、色々大変だねぇ。」
「彼らのおかげで利益を出せているんだ。もっとも、お前のクラッシュが減ればこんなに働かなくても・・。」
ぼやいてはみるが、頼られたら嫌と言えないのがハイネルであり、大企業の社長にも気負わず小さな町工場の主人にも親身で対応できるものだから、年々仕事は増える一方である。

「・・10分前になったら起こしてくれ。帰りは私が運転するから・・・・。」
呟きながらハイネルはシートに埋もれ、眼を閉じた。
その横顔をちらりと横見して、グーデリアンは精一杯揺らさないように高速道路へ滑り込んだ。

拍手[0回]

PR
  • ABOUT
ここはいわゆる同人誌といわれるものを扱っているファンサイトです。 もちろんそれらの作品とはなんら関係はありません。 嫌悪感を抱かれる方はご注意下さい。 無断コピー・転用等、お断りいたします。 パスワードが請求されたら、誕生日で8ケタ(不親切な説明・・)。
  • カレンダー
11 2025/12 01
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
  • フリーエリア
  • 最新CM
  • 最新TB
  • プロフィール
HN:
404
性別:
非公開
  • バーコード
  • ブログ内検索
  • 最古記事
(09/19)
(11/12)
(11/12)
(12/10)
(12/23)
  • カウンター
  • アクセス解析
Copyright © 404 filenotfound All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]