ハイネルになにかアクセサリーを送りたい。
グーデリアンはずっと考えていた。
今まで付き合った女の子には、節目節目にたびたびプレゼントにアクセサリーを送るのが習慣だった。
テンプレすぎるとは思うが見た瞬間に歓声を上げる姿も可愛らしかったし、自分のつけたアクセサリーを身につけている姿はちょっと支配欲が満たされる気もして、悪い気はしなかった。
指輪でもいいし、カフスでも時計でもいい。もっとも、指輪なんか贈ったところで「どこでつけろというんだ」と罵声を浴びせられることはわかっているんだけど。
それ以前に本人は金属アレルギーで、唯一身につけている眼鏡すらチタンで作らせている。
リネンとシルクに包まれて暮らしている恋人に何を送ればいいのか、世界の恋人のくせに思いつかないグーデリアンは今までの記念日にはうまくアクセサリーは避けるようにしていた。
「っかしぃなぁ・・・」
いつも通っているはずなのに、何度通ってもこの保安ゲートはピコピコと嫌な音を立て続ける。
グーデリアンは今、ゲートの前でポケットからがっちゃがっちゃと色々なものを放り投げていた。
隣では空港スタッフが、遅れかけの飛行機の時間をハラハラしながら見守っている。
鋲のついたブーツやらゴテゴテした財布やら、銀の塊のようなバックル、指にはゴツい銀の指輪。
おまけにバッグはほぼ持たず、携帯電話やら車のキーやら、すべての物品を厚いジャンパーのそこかしこに突っ込んで、水に入れたら沈むんじゃないかとハイネルがあきれるくらいの重量を担いで歩いている。
「いい加減にしないか。置いていくぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・あ。」
もう、こいつをエックス線に通せば早いのにとハイネルが思い始めたころ、その存在すら忘れかけていたいくつ目かのポケットから、グーデリアンは銀色の塊を探し当てた。
「・・・忘れてたー・・・・これ、持ち込んじゃ駄目だよね?。」
出てきたのは何の変哲もないジッポのオイルライター。
可燃物で危険物なわけで、もちろん空港の保安係は手で大きくバッテンを作った。
「うわー、どうしよう・・・」
「そんなもの、放棄していけばいいだろう。第一タバコはやめたくせに、何故そんなものを持っているんだ。」
「ずっと入れっぱなしで忘れてたんだよ。」
ということは、今までの飛行機は忘れっぱなしで乗っていたということか。保安検査員は、他国のセキリュティの甘さにため息をついた。
「アンティーク、もしくは誰かの形見か?」
「いや、16歳のときにそのへんの店で買った普通のジッポ。」
「そんなもの、私がまた買ってやる。飛行機はこれ以上待たせられん。行くぞ。」
「えー・・・」
ジッポはいとも簡単にハイネルにつままれて、保安員の手に渡された。
もっと抵抗するかと思われたグーデリアンは、ハイネルとジッポを見比べるように首を振り、ジッポにばいばいと手を振って搭乗口へと走り出した。
「なぜ、あんなジッポにこだわったんだ。」
乗客のいささか冷たい目線をかいくぐるように滑り込んだ夜便のファーストクラスで、ハイネルはグーデリアンに問いかけた。
「・・いやー、まぁ。あのさ、アレは俺が初めてお前に怒られた記念。」
「は?」
「アスリートなんだからタバコはやめろって。たまに吸うくらいだったけど、お前その時すごく怒ってたんだぜ。」
「・・覚えていない。」
「それまでも喧嘩してたけど、あぁやって面と向かって怒られたのは初めてでさー。」
どうやらその時使っていたジッポを、預け荷物に入れたりうっかりポケットに忘れたりしながら後生大事に持っていたということらしい。
「馬鹿だろうお前。」
「ひどいなぁ。でもいいよ、別に。毎日怒る本人がいるわけだしさ。」
「わかっているなら、怒らせるな。」
「わはは。ごーめーん。」
「まぁ、約束だからジッポは買ってやる。タバコは吸うなよ。」
「んーーー、それ、俺が選んでいい?なんかきれいな彫刻のついた奴とか。」
「構わない。わけのわからないアンティークなんかでなければ。」
「ありがと。」
注意アナウンスが終わり、照明も暗くなり始めた機内で、グーデリアンは遠く離れた隣席へキスをよこした。
グーデリアンは気付いていた。最近ハイネルのラボデスクの一番上に、苦いチョコレートや緑色のミントキャンディと一緒に細巻きのライトなメントールが入っているのを。
喫煙習慣はなかったはずなのに、度重なるストレスに耐えきれない時こっそり一本ずつ火をつけているのは、本人は誰にも気づかれていないつもりなんだろうけど。
深いキスをするとかすかにタバコの香りがするよなんて言ったら、顔を真っ赤にして怒るんだろうな。
-そうだ、思いっきり可愛いジッポを贈ろう。きれいな花の彫刻なんかしてあるやつ。
-っても、ハイネルに買ってもらってだけどな。怒るかな?
低く優しい声で毛布を配り始めるスタッフに、早速仕事をはじめたハイネルの分まで笑顔を返しつつ、グーデリアンは、今度の休みに早速専門店に行こうと決めた。
後日、案の定なぜ自分が送ったものをと怒るハイネルに、引退するまで預かっといてよとジッポを手渡した。誰かによく似たユリの花の彫刻のジッポ。
それと同じころ、なぜかシュトロゼック宛てに先日の空港から小さな荷物が届いた。中身は放棄したはずのあのジッポ。振り返るグーデリアンの姿を偶然CFファンの職員が気にとめ、わざわざ分解して非危険物にまでしてこっそり自前で送ってくれたということらしい。
今、二つのジッポはデスクの一番上の引き出しで、二つ仲良く並んでいる。
いつか引退して、二人でタバコを吸えたらいいよななんて甘い夢を語りながら。
グーデリアンはずっと考えていた。
今まで付き合った女の子には、節目節目にたびたびプレゼントにアクセサリーを送るのが習慣だった。
テンプレすぎるとは思うが見た瞬間に歓声を上げる姿も可愛らしかったし、自分のつけたアクセサリーを身につけている姿はちょっと支配欲が満たされる気もして、悪い気はしなかった。
指輪でもいいし、カフスでも時計でもいい。もっとも、指輪なんか贈ったところで「どこでつけろというんだ」と罵声を浴びせられることはわかっているんだけど。
それ以前に本人は金属アレルギーで、唯一身につけている眼鏡すらチタンで作らせている。
リネンとシルクに包まれて暮らしている恋人に何を送ればいいのか、世界の恋人のくせに思いつかないグーデリアンは今までの記念日にはうまくアクセサリーは避けるようにしていた。
「っかしぃなぁ・・・」
いつも通っているはずなのに、何度通ってもこの保安ゲートはピコピコと嫌な音を立て続ける。
グーデリアンは今、ゲートの前でポケットからがっちゃがっちゃと色々なものを放り投げていた。
隣では空港スタッフが、遅れかけの飛行機の時間をハラハラしながら見守っている。
鋲のついたブーツやらゴテゴテした財布やら、銀の塊のようなバックル、指にはゴツい銀の指輪。
おまけにバッグはほぼ持たず、携帯電話やら車のキーやら、すべての物品を厚いジャンパーのそこかしこに突っ込んで、水に入れたら沈むんじゃないかとハイネルがあきれるくらいの重量を担いで歩いている。
「いい加減にしないか。置いていくぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・あ。」
もう、こいつをエックス線に通せば早いのにとハイネルが思い始めたころ、その存在すら忘れかけていたいくつ目かのポケットから、グーデリアンは銀色の塊を探し当てた。
「・・・忘れてたー・・・・これ、持ち込んじゃ駄目だよね?。」
出てきたのは何の変哲もないジッポのオイルライター。
可燃物で危険物なわけで、もちろん空港の保安係は手で大きくバッテンを作った。
「うわー、どうしよう・・・」
「そんなもの、放棄していけばいいだろう。第一タバコはやめたくせに、何故そんなものを持っているんだ。」
「ずっと入れっぱなしで忘れてたんだよ。」
ということは、今までの飛行機は忘れっぱなしで乗っていたということか。保安検査員は、他国のセキリュティの甘さにため息をついた。
「アンティーク、もしくは誰かの形見か?」
「いや、16歳のときにそのへんの店で買った普通のジッポ。」
「そんなもの、私がまた買ってやる。飛行機はこれ以上待たせられん。行くぞ。」
「えー・・・」
ジッポはいとも簡単にハイネルにつままれて、保安員の手に渡された。
もっと抵抗するかと思われたグーデリアンは、ハイネルとジッポを見比べるように首を振り、ジッポにばいばいと手を振って搭乗口へと走り出した。
「なぜ、あんなジッポにこだわったんだ。」
乗客のいささか冷たい目線をかいくぐるように滑り込んだ夜便のファーストクラスで、ハイネルはグーデリアンに問いかけた。
「・・いやー、まぁ。あのさ、アレは俺が初めてお前に怒られた記念。」
「は?」
「アスリートなんだからタバコはやめろって。たまに吸うくらいだったけど、お前その時すごく怒ってたんだぜ。」
「・・覚えていない。」
「それまでも喧嘩してたけど、あぁやって面と向かって怒られたのは初めてでさー。」
どうやらその時使っていたジッポを、預け荷物に入れたりうっかりポケットに忘れたりしながら後生大事に持っていたということらしい。
「馬鹿だろうお前。」
「ひどいなぁ。でもいいよ、別に。毎日怒る本人がいるわけだしさ。」
「わかっているなら、怒らせるな。」
「わはは。ごーめーん。」
「まぁ、約束だからジッポは買ってやる。タバコは吸うなよ。」
「んーーー、それ、俺が選んでいい?なんかきれいな彫刻のついた奴とか。」
「構わない。わけのわからないアンティークなんかでなければ。」
「ありがと。」
注意アナウンスが終わり、照明も暗くなり始めた機内で、グーデリアンは遠く離れた隣席へキスをよこした。
グーデリアンは気付いていた。最近ハイネルのラボデスクの一番上に、苦いチョコレートや緑色のミントキャンディと一緒に細巻きのライトなメントールが入っているのを。
喫煙習慣はなかったはずなのに、度重なるストレスに耐えきれない時こっそり一本ずつ火をつけているのは、本人は誰にも気づかれていないつもりなんだろうけど。
深いキスをするとかすかにタバコの香りがするよなんて言ったら、顔を真っ赤にして怒るんだろうな。
-そうだ、思いっきり可愛いジッポを贈ろう。きれいな花の彫刻なんかしてあるやつ。
-っても、ハイネルに買ってもらってだけどな。怒るかな?
低く優しい声で毛布を配り始めるスタッフに、早速仕事をはじめたハイネルの分まで笑顔を返しつつ、グーデリアンは、今度の休みに早速専門店に行こうと決めた。
後日、案の定なぜ自分が送ったものをと怒るハイネルに、引退するまで預かっといてよとジッポを手渡した。誰かによく似たユリの花の彫刻のジッポ。
それと同じころ、なぜかシュトロゼック宛てに先日の空港から小さな荷物が届いた。中身は放棄したはずのあのジッポ。振り返るグーデリアンの姿を偶然CFファンの職員が気にとめ、わざわざ分解して非危険物にまでしてこっそり自前で送ってくれたということらしい。
今、二つのジッポはデスクの一番上の引き出しで、二つ仲良く並んでいる。
いつか引退して、二人でタバコを吸えたらいいよななんて甘い夢を語りながら。
PR
この記事にコメントする
- ABOUT
ここはいわゆる同人誌といわれるものを扱っているファンサイトです。
もちろんそれらの作品とはなんら関係はありません。
嫌悪感を抱かれる方はご注意下さい。
無断コピー・転用等、お断りいたします。
パスワードが請求されたら、誕生日で8ケタ(不親切な説明・・)。