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小雪の降る寒い日、グーデリアンは初めてシュツットガルトのハイネル家に足を踏み入れた。

「こんな感じでいいんだろう?」
「うっわ、サンキュ!」
重い扉を開けた先には防音室に大型スクリーンに7.1cHスピーカー。
床にはふかふかのラグと、大小たくさんのビーズクッションとローテーブル。
人間がダメになりそうなグーデリアン仕様の装備が完備されている。
「天井の高さに制限があるから、ソファが置けなかったのが残念だが。」
「いやいや、むしろこれでいいよ~」
心底うれしそうに、クッションに頬ずりしながらグーデリアンは垂れた目尻をさらに下げた。

グーデリアンの意外な趣味の一つに、映画があった。
外国で暇を持て余す間に、ちょっと入ればハリウッドの新作映画ならほぼ字幕で世界中で鑑賞できる。
ハイネルに言わせると「ご都合主義の映画だから、どうせ主人公が勝つんだろう?」の一言て終わるんだけれど。
しかしレースシーズンには見損ねる映画も多く、オフシーズンにまとめてアメリカの自宅のシアターでディスクや配信で見ていたらしい。
しかし冬をドイツで過ごすようになってわざわざアメリカに帰るのも面倒になり、ハイネルが借りているラボ近くの小さなアパートメントのテレビ画面で見るようになった。
外は雪だし、馬とかいないし、ドイツ語はよくわからないし、他に部屋を借りるってのもめんどくさいし。
別に本人は気にしていないようだが、、大きな体を丸めていじいじと画面を見ている姿を見かけたハイネルはその姿に大きくため息をつき、クリスマスプレゼント兼、来年分の誕生日プレゼントとして自宅にホームシアターを作ってやろうかという気になったのだった。

「で、こちらの客間がお前の部屋だ。鍵は渡すから好きに使ってくれていい。」
門や玄関用の電子キーと、対象的にごつくクラッシックな鍵を渡たされた。
「ハイネルの部屋のカギは~?」
「馬鹿か。用があるなら執事長を通せ。」
シアターからドアを開け、黒い色彩の部屋から明るく清潔な部屋へ移る。大きな窓からハイネル家の敷地が見渡せた。
「あのさ、嬉しいけどこの家、お父さんとかお母さん帰ってくるんだろ?俺が常にいたらまずくない?」
ハイネルは窓の外を指さした。
「父は、あの小高い丘の向こうの本宅にいる。歩いて10分くらいかな。この別宅は私とリサしかいない。祖母はベルリンで暮らしている。家事は呼べば向こうの使用人が来てくれる。週末は、父もベルリンの祖母宅に行くのでいないはずだ。」
「別宅って・・ここだけで俺んちくらいあるよ?。」
「祖父母が住んでいた家で、祖父は車が好きだったから、大きなガレージがあるんだが父は興味がないらしい。お前の実家も広いだろう?」
「いや、でもうちは広いったって、農場とか牧場コミコミだしね?普通に一軒にみんなで住んでるよ?」
「それは色々と面倒じゃないか?」
「まぁ、彼女連れ込んで姉ちゃんと鉢合わせしたり、エロ本隠して掃除されて見つけられたりとか色々・・?・・って、それが普通でしょ。」
理解できない、と言った風情でハイネルは肩をすくめた。
「大体、ヨーロッパのある程度の家の子女というものは私立の基礎学校で10歳くらいまで過ごし、そういう子女を集めた適当な全寮制の高等学校に進んで、多少の理不尽を感じながら集団での立ち居振る舞いを学び、その後の人脈を作り、大学に進んでその後は独立して暮らすことが多い。親元で過ごす時間は非常に短いし、帰ってきても会えないことも多いから、そんなものだと思っている。」
「それ、寂しくない?」
さらっと言ってのけた、あまったれな大男にハイネルは眉を上げた。
一緒に暮らすようになって、こいつは十二分に家族の愛とうっとおしさを感じながら育ったんだろうと思うことがたびたびある。
家族の誕生日や記念日はきちんと覚えているし、いくらダイエット中だと言ってみても大量のチョコバーと一緒にどう着ればいいのかわからない奇抜なシャツが送られてきて、毎回懲りず電話で喧嘩してみたり。
カードを渡しておくから要るものは適宜購入するように、という親子関係はそれなりに快適ではあったが、そういえば、自分が最後に父に贈り物をしたのはいつだったかなとハイネルはふと思った。

「・・使用人に仕事を依頼する際はだな・・」
窓際の、古いけれどよく手入れされたテーブルセットに二人で腰かける。
先回って用意されていたコーヒーと焼き菓子をつまみながら、英語併記の内線の電話番号一覧に、ハイネルは食事はここ、雑務はここにかけろとくるくると印をつけていく。
「そういや、お母さんは?前はベルリンで会ったよね。」
「そもそも年に何度も帰ってこないからな。デザイン改良で時々メールのやり取りはしている。」
実は、シュトロゼットプロジェクト時代からのチームユニフォームはハイネルの母作である。
工業ファブリック関連のデザイナーで、ひらひらとした華麗な世界でもなく、常に伝導率やら強度やら、数字の並ぶ仕事をしている。
グーデリアンも採寸の際に会ったものの、若く見えるのと旧姓のままなので言われるまで気がつかなった。ハイネルよりはリサが年を取ったらこんな感じかなと思われる、緑色の目のとても元気でタフな女性である。
もともとはシュトロブラムスのファブリック関連子会社の社長令嬢で、その才能に惚れたハイネル氏が一方的に告白したという話だが、リサに言わせると、「デザイナーとしての才能と行動力はずば抜けているが、経営能力には欠けていて何度か実家の会社をつぶしかけたツワモノ」らしい。「そこにパパが現れて、この人なら財力があるから、少々無茶をしても仕事ができるわって思ったらしいわよ」という、娘に向かって人生における素敵な打算の仕方まで教える、本当に素敵なマダムである。
「・・中身そっくりだもんなぁ・・」
「何がだ?」
強い緑色の目が上がる。
実の母に、似てないから連れて歩くのにちょうどいいと豪語されるほどなのに、この色だけはしっかりと遺伝子の存在を感じさせる。
「いや、なんでも。」
道理で、お父さんはハイネルに厳しく、地味な仕事も覚えさせようと必死になっているわけだ。
逆にリサちゃんのほうが、表向きの明るさは母親似だけどしたたかな経営の才能はありそうだなと思いつつ、グーデリアンは焼き菓子を一つ口に放り込んだ。

「使用方法はこんなところだが、他に質問は?」
再びシアターに戻り、ハイネルは操作方法を一通り教えた。
「特にないでーす。」
ビーズクッションに埋もれてゴキゲンな声がする。
ハイネルはリモコンをいじり、適当なDVDを再生しながら音質の微調整をする。
「言っておくが、いくら防音とはいえ、専用施設じゃないんだから夜中にハリウッドは見るなよ。」
「どれくらいの防音なの?」
「音は大抵遮断できるが、重低音の地響きはするだろうな。夜のアクション映画は禁止だ。」
「りょうかーい。じゃ、試してみようか。」
「・・は?」
「声くらいなら思いっきり出していいってことだよな。」
「うわっ!」
意外な瞬発力で伸びてきた腕に絡められ、ハイネルはビーズクッションの山に押し込まれた。
もがくほどにクッションが密着してきてますます身動きがとれなくなる上から、大きな体がのしかかってくる。

「こういうバカげたことのために作ったんじゃない!」
「そのつもりで作ってくれたんでしょ?こんなに俺においしい仕様。」
「んな・・・わけあるかー!」

そんな抵抗はお構いなしに腕をおさえられ、眼鏡を外されながら、ハイネルは来年のクリスマスプレゼントもなしだ!と心に誓ったのであった。

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