「誕生日、何か欲しいもの、・・ある?」
年末差し迫った12月、グーデリアンはとうとう神妙な面持ちで口に出してしまった。
「そういうものは、当人に聞かないものなんじゃないか?」
聞かれた本人はパソコンの画面から眼も上げず、口先で答えた。
近くの椅子に逆に腰かけ、背もたれに顎を載せてふてくされる。
「そうだよね。俺もそういうの得意なほうなんだけど。・・すんません、今年はギブアップ・・。」
「・・そうだな・・・今欲しいもの・・・」
「あ、来期の予算とかはなしね。」
「わかってるじゃないか。」
グーデリアンは、ハイネルは本当に物欲がない、とたびたび思う。
当たり前のように一級品に囲まれて育ってきたから、食べるものも着るものも品質に対してのこだわりはおおいにあるはずなのに、あれが欲しいこれが欲しいという欲がほぼない。
グーデリアンは、ハイネル本人の収入がシュトロブラムスの役員報酬程度だと聞いた時はびっくりした。
(それだって一般的にはかなりの額だけど、CFレーサーの報酬とはいくつか桁が違う)
レーサーとしての寿命が短いことを知っているハイネルは、グーデリアンには少々多めに積んでくれてはいるのだが、ハイネル自身、もうちょっととっとけよと提言してみたこともある。
そうしたら、ハイネルは眼鏡を直してちょっとだけ考え、こう答えたのだ。
「税金払うのもめんどくさいしな。」
興味のなさそうな、あっさりとした口調で。
もちろん、色々と金のかかる生活はしているわけだが、住居は頼まなくてもあちこちにあるし、もれなく使用人もついてくる。
車は本社から供給できるし、本やOA機器は大体経費で買える。ホテル住まいももちろん経費だ。
旅行は嫌いではないが、年の半分はレースで世界を回っているからあえて出かける気もしない。
服や靴は仕立てるが、そう年に何度も作るものでもない。
高級レストランでディナーも食べるには食べるが、日頃はそういえば最後の食事はいつ食べたかなんて状態で、ラボのカフェでなんとか栄養を補っている体たらくだった。
そんな状態で、自分の支給額がどれだけなのかもよくわからないがとりあえず残高は増えていくし、興味本位でやった株はそこそこの利益を上げていくし、忙しいしまぁいいかという、グーデリアンをして「意外にズボラ」と言われる性格がそこに如実に表れていた。
「せっかくだからなんか贈りたいのに、時計もアクセサリーもいらないって言うし。」
「金属アレルギーだからな。チタンなら大丈夫だぞ?夏場以外は。」
銀色の眼鏡をはずしてひらひらと振って見せる。
「・・それ、基本的にレースシーズンはダメってことじゃん。」
「お前の鋲だらけの衣服は見ているだけでかゆくなる。」
「あーもう。・・旅行とかどう?それともいっそテーマパーク貸し切り、とか。」
「あぁ、それは昔ランドルがユーロの某所でやった。5年ほど遅かったな。」
「へ?!」
意外な言葉が出てきてグーデリアンが椅子から顎を落とした。
「何それ、ハイネルも一緒に?」
「そうだ。男二人で貸し切りテーマパーク。それも、12/23にな。寒かったぞ。」
「ちょっと!冗談に聞こえないしそれ!」
思い出してくすくす笑うハイネルに、今にもつかみかかる勢いでグーデリアンが身を乗り出す。
「いや、ランドルと私が昔からの知り合いなのは知ってるだろう?。で、クリスマス直前にたまたま話をしていた時に、そういえば二人してそのテーマパークに行ったことがないな、という話になったんだ。」
画面の数字が少し読みづらいのか、唇に指をあてて覗きこむ。
「そこで私が、興味はあるが人がたくさんいるから嫌だと言ったら、ランドルはじゃあ貸し切りにしてやると言ってな。たまたま予定が空いていたのが私の誕生日で、二人して思う存分アトラクションに乗った。」
「クリスマス前デート真っ最中のカップル閉めだして、普通、そこまでされたら後は花火でプロポーズなんだけどね?」
「花火は見たが、残念ながら愛の告白はなかったな。後でリサにばれて、置いてかれたと大泣きされた。」
「あってたまるかよ。あーもう、大金持ちの坊ちゃん連中の金の使い方っておかしいよ!」
頭をぐしゃぐしゃとかきむしり、グーデリアンは立ち上がった。
「ま、そういうわけで、何か欲しいもの考えといて。」
デスクの前に寄って軽いキスだけを交わし、グーデリアンはドアから出て行った。
「・・欲しいもの・・な・・」
一区切りがついたのか、椅子の背にもたれてハイネルが呟いた。
何気に手に取った細身の螺鈿細工の万年筆は去年グーデリアンがプレゼントしたものだった。簡単なものだけど、と言われつつも、世界のどこまでも持って歩ける筆記用具は意外と役に立ち、シュトルムツェンダー風の美しい羽根模様の細工は見るたびに気持ちを和ませた。
デスクの上の車のキーには、一昨年のプレゼントの5cmほどのスイス製アーミーナイフがついていた。これはどこで覚えたのか、日本式に「つまらないものですが」、と渡された。
特注したというその色は深い緑のマーブルで、銀でシュトロゼックの印が入っている。うっかり空港で没収されると困るのでドイツ国内の車のキー専用にしているが、小さいながらも切れ味のいいナイフやハサミ、ライトまでついているのが気にいっていた。
どれも、高価ではないが相手のことを思って丁寧に作られたことがよくわかる。
ただし、どちらもギリギリに青い顔でぐったりしながら渡されたあたり、毎年迷っては困って苦し紛れに選んでいるものなんだろうが。
むしろこういう、身近で小さなものがいいんだが・・と思うのに、なぜあいつは気付かないんだろう。
恋人が自分のために真剣に悩んでいるのはちょっと嬉しいけれど。
「・・鈍い奴め。」
にやりと笑い、ハイネルは今年は何か二人で楽しめるものをねだってみようかとネットサーフィンを始めた。
年末差し迫った12月、グーデリアンはとうとう神妙な面持ちで口に出してしまった。
「そういうものは、当人に聞かないものなんじゃないか?」
聞かれた本人はパソコンの画面から眼も上げず、口先で答えた。
近くの椅子に逆に腰かけ、背もたれに顎を載せてふてくされる。
「そうだよね。俺もそういうの得意なほうなんだけど。・・すんません、今年はギブアップ・・。」
「・・そうだな・・・今欲しいもの・・・」
「あ、来期の予算とかはなしね。」
「わかってるじゃないか。」
グーデリアンは、ハイネルは本当に物欲がない、とたびたび思う。
当たり前のように一級品に囲まれて育ってきたから、食べるものも着るものも品質に対してのこだわりはおおいにあるはずなのに、あれが欲しいこれが欲しいという欲がほぼない。
グーデリアンは、ハイネル本人の収入がシュトロブラムスの役員報酬程度だと聞いた時はびっくりした。
(それだって一般的にはかなりの額だけど、CFレーサーの報酬とはいくつか桁が違う)
レーサーとしての寿命が短いことを知っているハイネルは、グーデリアンには少々多めに積んでくれてはいるのだが、ハイネル自身、もうちょっととっとけよと提言してみたこともある。
そうしたら、ハイネルは眼鏡を直してちょっとだけ考え、こう答えたのだ。
「税金払うのもめんどくさいしな。」
興味のなさそうな、あっさりとした口調で。
もちろん、色々と金のかかる生活はしているわけだが、住居は頼まなくてもあちこちにあるし、もれなく使用人もついてくる。
車は本社から供給できるし、本やOA機器は大体経費で買える。ホテル住まいももちろん経費だ。
旅行は嫌いではないが、年の半分はレースで世界を回っているからあえて出かける気もしない。
服や靴は仕立てるが、そう年に何度も作るものでもない。
高級レストランでディナーも食べるには食べるが、日頃はそういえば最後の食事はいつ食べたかなんて状態で、ラボのカフェでなんとか栄養を補っている体たらくだった。
そんな状態で、自分の支給額がどれだけなのかもよくわからないがとりあえず残高は増えていくし、興味本位でやった株はそこそこの利益を上げていくし、忙しいしまぁいいかという、グーデリアンをして「意外にズボラ」と言われる性格がそこに如実に表れていた。
「せっかくだからなんか贈りたいのに、時計もアクセサリーもいらないって言うし。」
「金属アレルギーだからな。チタンなら大丈夫だぞ?夏場以外は。」
銀色の眼鏡をはずしてひらひらと振って見せる。
「・・それ、基本的にレースシーズンはダメってことじゃん。」
「お前の鋲だらけの衣服は見ているだけでかゆくなる。」
「あーもう。・・旅行とかどう?それともいっそテーマパーク貸し切り、とか。」
「あぁ、それは昔ランドルがユーロの某所でやった。5年ほど遅かったな。」
「へ?!」
意外な言葉が出てきてグーデリアンが椅子から顎を落とした。
「何それ、ハイネルも一緒に?」
「そうだ。男二人で貸し切りテーマパーク。それも、12/23にな。寒かったぞ。」
「ちょっと!冗談に聞こえないしそれ!」
思い出してくすくす笑うハイネルに、今にもつかみかかる勢いでグーデリアンが身を乗り出す。
「いや、ランドルと私が昔からの知り合いなのは知ってるだろう?。で、クリスマス直前にたまたま話をしていた時に、そういえば二人してそのテーマパークに行ったことがないな、という話になったんだ。」
画面の数字が少し読みづらいのか、唇に指をあてて覗きこむ。
「そこで私が、興味はあるが人がたくさんいるから嫌だと言ったら、ランドルはじゃあ貸し切りにしてやると言ってな。たまたま予定が空いていたのが私の誕生日で、二人して思う存分アトラクションに乗った。」
「クリスマス前デート真っ最中のカップル閉めだして、普通、そこまでされたら後は花火でプロポーズなんだけどね?」
「花火は見たが、残念ながら愛の告白はなかったな。後でリサにばれて、置いてかれたと大泣きされた。」
「あってたまるかよ。あーもう、大金持ちの坊ちゃん連中の金の使い方っておかしいよ!」
頭をぐしゃぐしゃとかきむしり、グーデリアンは立ち上がった。
「ま、そういうわけで、何か欲しいもの考えといて。」
デスクの前に寄って軽いキスだけを交わし、グーデリアンはドアから出て行った。
「・・欲しいもの・・な・・」
一区切りがついたのか、椅子の背にもたれてハイネルが呟いた。
何気に手に取った細身の螺鈿細工の万年筆は去年グーデリアンがプレゼントしたものだった。簡単なものだけど、と言われつつも、世界のどこまでも持って歩ける筆記用具は意外と役に立ち、シュトルムツェンダー風の美しい羽根模様の細工は見るたびに気持ちを和ませた。
デスクの上の車のキーには、一昨年のプレゼントの5cmほどのスイス製アーミーナイフがついていた。これはどこで覚えたのか、日本式に「つまらないものですが」、と渡された。
特注したというその色は深い緑のマーブルで、銀でシュトロゼックの印が入っている。うっかり空港で没収されると困るのでドイツ国内の車のキー専用にしているが、小さいながらも切れ味のいいナイフやハサミ、ライトまでついているのが気にいっていた。
どれも、高価ではないが相手のことを思って丁寧に作られたことがよくわかる。
ただし、どちらもギリギリに青い顔でぐったりしながら渡されたあたり、毎年迷っては困って苦し紛れに選んでいるものなんだろうが。
むしろこういう、身近で小さなものがいいんだが・・と思うのに、なぜあいつは気付かないんだろう。
恋人が自分のために真剣に悩んでいるのはちょっと嬉しいけれど。
「・・鈍い奴め。」
にやりと笑い、ハイネルは今年は何か二人で楽しめるものをねだってみようかとネットサーフィンを始めた。
PR
この記事にコメントする
- ABOUT
ここはいわゆる同人誌といわれるものを扱っているファンサイトです。
もちろんそれらの作品とはなんら関係はありません。
嫌悪感を抱かれる方はご注意下さい。
無断コピー・転用等、お断りいたします。
パスワードが請求されたら、誕生日で8ケタ(不親切な説明・・)。