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「では、こちらに携帯電話と、お持ちでしたらPC類も。お仕事のお話はご遠慮ください。」
「まぁ・・いいけどさ。」
「鍵はご退室の際に開けさせていただきますので、お声かけください。ではくれぐれも、フランツ様のお気持ちを波立たされませんように。」
うやうやしくコンシェルジュにドアを開けられ、グーデリアンはやっと病室に入ることを許された。

「よぉ。ごめんな、色々インタビューとか走り回っててさ。」
「あぁ。一人で回らせてすまんな。」
「仕事以外の手紙は持ってきたけど・・で・・これどういう状況?」
携帯電話を入れられ、鍵をかけて渡されたプラケースをからんからんと降ってみると、ベッドで点滴を受けていたハイネルは苦笑した。
「私が仕事をしないよう、父が完全に情報をシャットアウトしているんだ。新聞テレビもダメ。本とDVDのみで暮らせ、だと。」
「無茶いうねぇ。」

グーデリアンがワールドチャンピオンに輝いた後。ハイネルは張り詰めていたものが切れたのか、体調を崩した。
いつものことだからと主治医をうまく丸めこみ、2-3日休息をしたら適当に通常業務に戻るつもりだったが、父である社長の命令が下され、いつの間にか総合病院に送られて長期の検査入院をする羽目になったのだった。

「しっかし、ここアパートメントより広いんじゃない?。」
ベッド横のマホガニーチェアに座り、グーデリアンは病室を見渡した。
私立総合病院の最上階に控えの間付きの特別病室なんていうものがあるのも初めて知ったが、こっそり監視カメラまで仕込んであるのを確認する。
ハイネルは不自由な腕を動かし、ベッドをリクライニングさせた。
「・・軟禁生活だ。まったく、何度も輪切りにされたり透視されたり、実験動物のように扱われている。」
「逃げちゃう?俺、そういうの得意だけど。・・何それ?」
明るくおどけてみたグーデリアンに、ハイネルは左手首を振って見せた。そこには、患者認識票としてはやたらと頑丈な、灰色の金属リングがはまっていた。
「GPSだ。痴呆老人徘徊の対策に、現在開発中の。」
「・・・・・・・・・そこまでやる?」
一瞬、まさしく親子だとグーデリアンは思ったが、心底うんざりしたハイネルの様子に口に出すのは差し控えておいた。

「で、飯は食えてんの?」
嫌そうな顔をしながら、ハイネルはテーブルの上の、病院食に加えて差し入れと思われるたくさんの皿が、一口食べて、もしくは大半は蓋も開けられないまま散らかされているのを指さした。
「その結果が、こうなったんだ。もう勝手にしてくれ。冷蔵庫の中にもまだ色々入ってる。」
右腕につながる点滴をうっとおしそうに見上げる。もともと食欲が湧きにくい体質の上、頭も体も使わないのだからこんな環境じゃますます食べられない。完全に嫌々モードだ。
「んー、このチーズクリームとか、おいしそうよ?」
冷蔵庫の中にはハイネルの好む銘柄の水とチョコレート、フルーツとデザート。好みを知った人間が用意している様子がよくわかる。
「食べていけ。減っているほうが後で医師の小言も減る。」
「監視カメラついてるでしょー?」
言いつつも グーデリアンは放り出されていたスプーンを取り、レモンママレードのソースと一緒にすくって味見した。
「うまいよ、これ?」
もう一口すくい、ハイネルの口元に近づける。ちょっと躊躇した様子を見せたが、ハイネルはおとなしく口を開いた。しかし、すぐに渋い顔になる。
「・・・ざらざらする。紅茶をくれ。」
ポットから、冷めてしまった紅茶をグラスに注いで渡すと、口の中を洗うように含みながら飲みこんだ。

「で、いつ退院できそうな感じ?」
グーデリアンはレモン入りのペリエ片手に、いささかぱさつくローストビーフや乾きかけたレンズマメのサラダ、冷めて固くなってしまった魚のポアレなどを味見する。どれも、出来たてならそんなに悪くない味付けじゃないかと思いながら。
「私に聞かないでくれ。どうしても何か病気を見つけたいらしいから。」
「見つけてどうするんだ?」
「・・・・多分、」
グーデリアンから奪ったペリエの瓶をくるくるとまわし、ハイネルが何かを言いかけたところでドアをノックする音が聞こえた。

「フランツ、体調はどうだ。」
たったいま出来上がった塑像のような完璧さをまとわせながら、シュトロブラムス社長が現れた。

「今のところ、問題はありません。」
「そうか。まぁ、今はゆっくり休みなさい。差し入れだ。」
老舗洋菓子店の紙袋を差し出す。代わりに受け取ったグーデリアンが中を覗くと、クリスタルの器に入った洋酒ボンボンが入っていた。
(・・嫌がらせのレベルだよなぁ、こりゃ。)
グーデリアンは、正直この父親が苦手だった。そりゃ社長でチームオーナーで煙たい存在であるのはしょうがないとして。

フランツ・ハイネルによく似た色の髪と薄い茶色の目を持つゲオルグ・ハイネルは、ちょっと歳の離れた兄弟といった優しい風情の姿形と仕草をしてはいたが、その中身は全く息子とは違っていた。
聞けば、実力主義のハイネル家において何人かの兄弟がいる中で頭角を現し、他を差し置いて社長にのし上がったらしい。
祖母譲りの、年とってなお美しい美貌と恐ろしいほどの切れ味を持つ経営手腕を駆使し、人を虜にするのが当然と思っている自信家だ。(実際は天真爛漫に世界を飛び回って生きている妻のみには、一向にその魅力は届いていないようなのだが)。
男女人モノ問わず美しいもの、完璧なものが大好きで、秘書室はそれはもう華やかではあるが、自分の魅力を熟知し、引き出す配置は忘れない。
そんなナルシズムにあふれる人間の送ってくるものと言えば、恭しく鎮座する砂糖漬けフルーツやら、やたら手の込んだチョコレート、宝石箱に入ったマカロン、薔薇のコンフィチュールなど。とても自分より背が高くなった息子に送るものとは思えないラインナップだった。
かつて二人揃って表彰台を飾った際などは、気まぐれなのだろう、一抱えもある深紅の薔薇の花束を抱きかかえてサーキットに現れた。場違いに華やかな父とその一行を、ハイネルが陰でぼそっと「可愛げのないランドルみたいなものだ」と評していたのを、グーデリアンは笑うよりも大きくうなずくしかなかったのだ。

さてどうしたものかとグーデリアンが袋をテーブルに置き、ハイネルのほうをそろりと見ると、彼は怒りに満ちた目で父の姿をねめつけていた。
「グーデリアン君には、フランツの分まで色々と広報の仕事をさせてすまないね。」
社長はそんなハイネルを歯牙にもかけず、少し甘さのある声でねぎらいの声をかけながら、壁際のソファに腰をかける。 空気が重いというよりは、もはや痛い。
「えーと・・じゃあ、俺は帰りますね。」
「いや、君もいてくれたほうがいいな。フランツの機嫌が多少ましになる。」
長期戦になりそうだと、そそくさと帰りかけたグーデリアンを、社長は呼びとめる。
ハイネルの眉がさらに険しく顰められた。

「・・お父さん。私はいつ退院できるのでしょうか。グーデリアンにも迷惑をかけていますし、そろそろ仕事に戻りたいのですが。」
単刀直入に切り出したハイネルに、父は両手を上げてさらりと微笑で交わす。
「検査が終わったら退院できるんじゃないかね。問題がなければ。」
「・・それは、問題を見つけるまで監禁しておくということですか。」
遂に、ハイネルの苛立ちが沸点を超えた。
「人聞きが悪いな。レーサーを引退すると言えばすぐにでも退院できるのに。」
長い脚を組みかえ、小首を傾げてみせる。
「わかっているんだろう、自分の限界くらいは。このまま続けて、レーサーとしていい成績が残せる可能性は極めて低い。今まで自由にさせてきたが、そろそろ現実を見る時じゃないのかね。検査結果を見たが、その視力の落ち方だけでも尋常ではないだろう?」
ハイネルの目の緑が一層濃くなった。

二人が同居するようになってから数年、ハイネルがだんだんと人前に出ない時も眼鏡に頼るようになってきていたのをグーデリアンは気付いていた。
ほぼイメージ用と言われている眼鏡だが、実は軽い乱視があり、10代の頃、本を読み過ぎて調子が悪くなっているのを父親に悟られまいとかけはじめたものだったはずだ。
それが、若いころはうまく筋肉を使い、ピントを合わせることができたから発覚しなかったが、だんだんと酷使と加齢により調整が利かなくなっていた。
普段の検査ではそこを理解する医師と、勘でなんとかなっていたのを、この病院の検査では遂に暴かれてしまったのだ。

(いいとこ突いてくるよな・・さすがに親子だよ。)
生理的に苦手なのはしょうがないとして、グーデリアンはこの華麗で過激な父親の手腕は評価していた。
シュトロゼックはほやほやの若造が立ち上げたにしては妙にそつのないチームで、わずか数年でチャンピンすら獲ってしまった。レーシングチームとは技術力や資本力のみで成り立つものではない。その裏で、この父が大きく暗躍しているのを、色々なチームに在籍していたグーデリアンはハイネルよりも強く実感していた。
また同時に、大幅に歪んではいるものの、結局は息子に対する愛情表現なのだということもよく理解はしていた。ただ、その方法がいささか極端なのだけれど。

お互い、他人に対しては十分に思いやりのある態度で接することができるのに、期待する相手にほどに厳しい態度を取ってしまう。
まるでハリネズミのジレンマ。近くに寄れば寄るほど、相手を傷つけてしまうんだ。

「グーデリアン君としては、どうなんだ?フランツがボロボロの体を引きずってレーサーを続けているのは、君にとってメリットかね?」
唐突に矛先が向けられ、グーデリアンはぐっと息をのんだ。
「えーと、俺がチャンピオンになれたのもハイネルのサポートがあってのことだし。」
「客観的に見ていて、確かにそれを感じる時もあるが、むしろ君の足かせになっている部分もあると感じる。君は車体さえしっかりしていれば単独で優勝が狙える才能がある。サポートドライバーが欲しければ手配しよう。フランツにこだわることはないと私は思うがね。」
なんとかフォローしようとするものの、完全に論破される。
ハイネルはもう目線をそらしてしまっている。おそらく、今までも一番肝心なところでは押し切られるしかなかったのだろう。
頭のいい人間同士の喧嘩というものは非常に冷酷だと思う。まるで名人同士のチェスのように、何がどうなったのかわからないうちに決着がついている。
力関係がはっきりしているから、あがくことすらせずに勝敗が決まるのだ。

あぁ、経営者としては手練れの癖にその面においてだけ絶望的に不器用なこの親子は、一番突いてはいけない場所をいきなりえぐってしまうんだ。似たもの親子め。

嘆息したグーデリアンは、ふと、自分が大きな切り札を持っているのを思い出した。
ペリエの瓶を握りしめたまま固まっているハイネルの手から、そっと瓶を抜き取るふりをして軽く手に触れる。虚ろな目が緑色の瓶の行方を追ってグーデリアンのほうを向いた。
「そういえば社長、来季の契約条件で、俺から一つお願い、あるんですけど?」
「なんだね?契約金は期待していい額だと思うが。改まって、ワールドチャンプのお願いとは怖いな。」
肩をすくめておどけて見せる父に、グーデリアンは正面から向き合った。
「ハイネルが自分で引退を決めるまで、自由にさせてやってください。それが俺が欲しい、唯一の条件です。」
社長の片眉が上がる。それは日頃、頑ななハイネルから譲歩を引き出すきっかけをつかんだ時と同じだった。

「・・友情のつもりかもしれないが、一時の感情であえて不利な条件をというのは交渉の仕方としては賢いとは言えないな。」
笑ってはいたが、父の顔からからかう色は消えていた。
動揺を感じ取ったグーデリアンは、すかさず言葉をつづけた。
「俺が走るのは、ハイネルがいるからです。」
いいながら、グーデリアンはハイネルの背に手を回し、唇にキスをする。
体を離すと、あっちとこっちで茶色と緑色の瞳が見開かれ、同じ表情で凍りついていた。
こういう時まで親子だと、ついにグーデリアンは噴き出した。
「じゃ、そういうわけで来季もよろしく!」

『待て、ジャッキー・グーデリアン!』
見事にハモる声を背に、グーデリアンは携帯の入ったアタッシュケース片手に立ちあがった。
「お前どういう!・・あ、痛っ!」
去り際に後ろを振り返ると、急に動いて点滴がずれたのか背中を丸めるハイネルと、あわてて走り寄る父の姿が見えた。後は親子で解決しろよと手をふり、グーデリアンはドアを閉めてしまった。


「馬鹿もの!」
次の日、右腕は派手な内出血とテーピングで痛々しい状態ではあったが、無事に帰宅したハイネルは、リビングで待っていたグーデリアンにまず思いつく限りの罵声を浴びせた。
「レーサーの腕に何かあったらどうするつもりだったんだ!おまけに父の眼前であんな・・!」
「よかったじゃん、来季もレーサー出来るんだろ?今、社長から承諾メール届いたぜ。」
タブレットを操りながらしれっと答えたグーデリアンの前で、ハイネルは耳まで真っ赤にした。
「・・知るか!」

(本当、親子して素直じゃないところもそっくりなのな。)
色々めんどくさい親子だけれど、ちょっと可愛らしい。
(・・可愛らしい・・・?!)
一瞬、信じられない単語が自分の脳裏をよぎり、グーデリアンはぷっと吹き出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
嵐が去った後、腕を押さえて背を丸めるハイネルに駆け寄った父は、少しでも出血が止まるよう、真っ先に左手で二の腕の血管を圧迫しながら右手でナースコールを探した。
処置を待つ間、ハイネルは自然と、父の肩のあたりに額を預ける体制となった。
「・・お父さん・・」
「・・・・・・・・・・・薄々わかってはいたが、ひどいショックだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あの・・・・すみません・・・・・・・・」
「興味本位で男と寝るなとは言わん。ただし、いくら悪い虫といったって、よりによってあんなのが!」
「・・・・・・いや、別にそういう嗜好はないのですが・・・・・・・」
二人してお互いの肩にため息をつく。どうしてこうなってしまったのか。あぁ、あのアメリカ男が諸悪の根源だったなと。
が、人生経験の分、父は立ち直りも早い。
「・・・こうなったら、あの種馬をせいぜい会社に都合のいいように死ぬまでこき使ってやる。シュトロブラムスの御曹司に手を出したことを後悔させてやる。」
ちらりと伺った父の、今まで見たこともないような不敵な横顔を見て、ハイネルは背筋に冷たいものを感じたのだった。

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がんばれグーデリアン。ナイス嫁(え?)。

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