「なんでお前がここにいるんだよ。」
休日のシュツットガルトのハイネル家別邸、応接室。
テーブルの上にはハイネルにしては珍しい、豪華な花柄のコーヒーセット。
そして、ハイネルの向かいにはこれまた珍しく、コーヒーを嗜むランドル家次期当主が座っていた。
「それは僕のセリフだ。まだ捨てられてなかったのか。アメリカの駄犬。」
「あぁん?」
「どっちもよさんか。こいつは放っておくと何をしでかすかわからないから、手の届くところで見張っておくほうが楽なんだ。」
今にも小競り合いを始めそうな二人をめんどくさそうに諌め、ハイネルは硝子のカバーを外し、チョコレートの色も艶やかなケーキを一切れ切り取った。
金ライン入りのカップにコーヒーとミルクを注ぎ、ケーキの皿とともにグーデリアンに手渡す。
空いたソファにどかりを腰をおろしてケーキをほおばれば、市販のものよりは甘さが前面に出てこず、しっとりとした香りと風味が広がった。
「まだ機嫌が悪そうだな。せっかく君好みのザッハトルテを作らせてきたというのに。」
「あたりまえだろう。新車開発の合間に人が死ぬ思いで作ってやったマシンを、紅茶が飲めないだと?ケーキ一つで収まると思ったら大間違いだ。」
だからランドルが来ているのにわざわざコーヒーなのかと、グーデリアンは心の中で密かに噴き出した。
「ほう、じゃあ君が好きそうな古いドゥカティのカフェレーサーも持ってきているんだけど、持ち帰ろうかな。」
「・・・・いや、見る。」
ハイネルの片眉がぴくりと動く。
後はベベルがどうとかイモラがこうとか、ついでにあそこの経営者がどうなったとか謎の単語がグーデリアンの前を行きかうだけ。
ミルクを入れてなお苦いコーヒーをすするように飲みこみ、グーデリアンは顔をしかめた。
ドイツに来てみて、グーデリアンは「ハイネルの家にランドルが来る」という意外な状況に驚いた。
さすがにファクトリー近くの隠れ家アパートメントに現れたことはないが、きちんとした設備のある別宅のほうではハイネルの手料理を食べていくことすらあった。
ハイネル自身は歳の離れた弟気分で別にどうというつもりはないのだろうが、興味のない人間には表面だけでうまく受け流しておくハイネルが髪も上げない姿でランドルと心底楽しそうに話しているのを見るたびに、グーデリアンの心中は穏やかではなかった。
特に、エンジン関係にやたらと恋多きハイネルの長年の趣味であるバイク分野においては、サイバーバイカーズの経験のあるランドルに勝てる要素が見つからない。
(そもそも、ランドルがバイクを始めたのはハイネルの影響があったからじゃないかという疑惑も持たれるのだが)
自身のバイク乗りの経験を取り込んだのがつまりはローリングコクピットのポジションで、腕だけでなく、全身を使って操作する感覚がないと乗りこなせない。
グーデリアンとて二輪に乗らないわけではないが、馬の乗り方に違いがあるように、アメリカの大地を大排気量のバイクでひたすら直進するスタイルと、ワインディングを滑るように攻めるヨーロッパの乗り方は全く目指すものが違う。
一度、俺荷物積んでアメリカ横断とかしたいんだよねと口を挟んでみたら、二人して「わけがわからない」と即時に全否定された。
「と、少しのつもりが長居をしてしまった。そろそろ帰らなくては。」
「あぁ。じゃまた。」
「仕事が落ち着いたら、北欧へツーリングに行こう。」
「いいな。」
そして適当な時間がくれば決してべたべたするわけでもなく、しかしきちんと次の約束をして別れる。
その距離感が微妙に悔しくて。
「絶対お前になんかやらねぇからな・・・」
エントランスから走り去るランドルのリムジンにグーデリアンは指でばん、とピストルを撃つ真似をした。
休日のシュツットガルトのハイネル家別邸、応接室。
テーブルの上にはハイネルにしては珍しい、豪華な花柄のコーヒーセット。
そして、ハイネルの向かいにはこれまた珍しく、コーヒーを嗜むランドル家次期当主が座っていた。
「それは僕のセリフだ。まだ捨てられてなかったのか。アメリカの駄犬。」
「あぁん?」
「どっちもよさんか。こいつは放っておくと何をしでかすかわからないから、手の届くところで見張っておくほうが楽なんだ。」
今にも小競り合いを始めそうな二人をめんどくさそうに諌め、ハイネルは硝子のカバーを外し、チョコレートの色も艶やかなケーキを一切れ切り取った。
金ライン入りのカップにコーヒーとミルクを注ぎ、ケーキの皿とともにグーデリアンに手渡す。
空いたソファにどかりを腰をおろしてケーキをほおばれば、市販のものよりは甘さが前面に出てこず、しっとりとした香りと風味が広がった。
「まだ機嫌が悪そうだな。せっかく君好みのザッハトルテを作らせてきたというのに。」
「あたりまえだろう。新車開発の合間に人が死ぬ思いで作ってやったマシンを、紅茶が飲めないだと?ケーキ一つで収まると思ったら大間違いだ。」
だからランドルが来ているのにわざわざコーヒーなのかと、グーデリアンは心の中で密かに噴き出した。
「ほう、じゃあ君が好きそうな古いドゥカティのカフェレーサーも持ってきているんだけど、持ち帰ろうかな。」
「・・・・いや、見る。」
ハイネルの片眉がぴくりと動く。
後はベベルがどうとかイモラがこうとか、ついでにあそこの経営者がどうなったとか謎の単語がグーデリアンの前を行きかうだけ。
ミルクを入れてなお苦いコーヒーをすするように飲みこみ、グーデリアンは顔をしかめた。
ドイツに来てみて、グーデリアンは「ハイネルの家にランドルが来る」という意外な状況に驚いた。
さすがにファクトリー近くの隠れ家アパートメントに現れたことはないが、きちんとした設備のある別宅のほうではハイネルの手料理を食べていくことすらあった。
ハイネル自身は歳の離れた弟気分で別にどうというつもりはないのだろうが、興味のない人間には表面だけでうまく受け流しておくハイネルが髪も上げない姿でランドルと心底楽しそうに話しているのを見るたびに、グーデリアンの心中は穏やかではなかった。
特に、エンジン関係にやたらと恋多きハイネルの長年の趣味であるバイク分野においては、サイバーバイカーズの経験のあるランドルに勝てる要素が見つからない。
(そもそも、ランドルがバイクを始めたのはハイネルの影響があったからじゃないかという疑惑も持たれるのだが)
自身のバイク乗りの経験を取り込んだのがつまりはローリングコクピットのポジションで、腕だけでなく、全身を使って操作する感覚がないと乗りこなせない。
グーデリアンとて二輪に乗らないわけではないが、馬の乗り方に違いがあるように、アメリカの大地を大排気量のバイクでひたすら直進するスタイルと、ワインディングを滑るように攻めるヨーロッパの乗り方は全く目指すものが違う。
一度、俺荷物積んでアメリカ横断とかしたいんだよねと口を挟んでみたら、二人して「わけがわからない」と即時に全否定された。
「と、少しのつもりが長居をしてしまった。そろそろ帰らなくては。」
「あぁ。じゃまた。」
「仕事が落ち着いたら、北欧へツーリングに行こう。」
「いいな。」
そして適当な時間がくれば決してべたべたするわけでもなく、しかしきちんと次の約束をして別れる。
その距離感が微妙に悔しくて。
「絶対お前になんかやらねぇからな・・・」
エントランスから走り去るランドルのリムジンにグーデリアンは指でばん、とピストルを撃つ真似をした。
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