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ある年、秋口のフランスGPに珍しく早入りしたハイネルは、チームはまだ仕事をしている時間なのにこれまた珍しく2時間ほど私用で外出すると言いだした。
「外出の後はホテルで仕事をしているから、何かあったら携帯に連絡してくれ。」
ついでに、こいつは邪魔だから連れて行くぞとグーデリアンをお供に従えて。

サーキットを抜け出して行った先は、ホテルから歩いて行ける距離のフランス料理のビストロだった。

人目を避けてカーテンで区切られたスペースの中で、ソムリエに適当に選ばせた地物の赤ワインを片手にハイネルはご満悦だった。
魚の料理はとらず、前菜からひたすらジビエを食べ続けている。鹿の煮込み、猪のグリル、うずらのロースト・・中でもうさぎのパテはいたく気にいったようで、夜食にでもする予定なのかギャルソンにサンドイッチにできないか尋ねている。
続いて今度は白も欲しくなったのか、再びソムリエを呼び、こういう味のものはないかと相談を始める。
女の子ウケする銘柄ばかりは詳しいグーデリアンに比べ、ハイネルは意外にもワインの名前をほとんど覚えることがない。
『そんなものはソムリエにまかせておけばいい。気に入らなければもう一本持ってこさせればいい。保存条件の悪い銘柄品よりは、専門家がすすめるもののほうがいくらかはマシだろう。』
つまり、頭の中をそんなもので埋める余裕はないということらしい。今度もきちんと自分の望み通りのものが出てきたのか、グラスを変えて一人うなずいていた。

「なんでわざわざこんなちまちました肉食うの?豚とか牛とか食べときゃいいじゃない。」
「人のおごりで文句を言うな。秋はジビエだろう。」
白い指先が汚れるのもいとわず、細い骨のあるローストから優雅に肉をかじりはがしながらハイネルは答える。
「あー・・ヨーロッパ人めんどくせぇ・・。俺がピーター・ルーガー連れてった時はそんなに喜ばなかったくせに・・」
「じゃあ、次はランドルと来よう。」
「・・やめてくれ。あの坊ちゃんと気が合うのはわかるけど。」
お前ら二人してさらっと一線超えそうだもんな、と付け加えようとして、グーデリアンは肉と一緒に飲みこんだ。
-ようするに、ジビエ食べたさに一日早入りまでして、あれこれも食べたいから俺が片づけ係ってわけね。
ジビエに合わせた渋めのワインをちびちびなめながら、グーデリアンはすべてを理解した。

「ん?」
ハイネルがテーブルに置いた携帯電話が光っているのに気がついた。
流行のタブレット型ではなくて、最近珍しい電話とメール機能のみのあっさりした薄手の携帯電話。
毎日充電するのが面倒なのと、そこまでしてネットの世界につながっていたくないという理由らしい。
しかしシュティールを塗装するついでに塗らせた銀と緑色の端末は、ハイネルの白く長い指によく似合っているとグーデリアンはいつも思う。

「失礼。」
一応は一言謝ってからメールを確認し、返信を打とうかとちょっと考え、思い直して電話をかける。相手はチームの誰かだろう。すばやく指示を出し、ねぎらいの言葉をかけて通話を切る。
だが、食事を再開してすぐにまた携帯電話が光る。今度は点滅が違う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
光り続ける携帯電話を開けて確認し、ハイネルはぷっつりと電源を切るとジャケットのポケットにつっこんでしまった。

それからほどなくして、今度はグーデリアンの携帯電話が震えだした。
ポケットに入れておいたのをとりだすと、画面にまさかのシュトロブラムス社長の文字。
口に入ったままのワインをあわてて飲み干すと、グーデリアンはほぼ反射的に通話のボタンを押した。

「ジャッキー・グーデリアン・・君の前に、フランツがいやしないかね。」
「んな?」
通話がつながると同時に、地を這うような低い声が響く。
「・・伝えろ。せっかくお膳立てをしてやったのに、先方からまた断りの連絡が入ったぞ。アオイの件といい、お前はどうしてそうなんだと!以上!」
いつもの人を食ったような甘い声が嘘のような迫力で通話は切れた。
唖然と携帯電話とハイネルを交互に見つめるグーデリアンに、ハイネルは肩をすくめてみせた。
「父からだろう。」
「お前、知っててとらなかったな・・・・」
「さぁ?」
「最近よく見た、あのブルネットの可愛い子、見合い相手だったんだ?。」
「あぁ。断られたんだろう。最近先方から連絡がなかったから、放置していた。」
自分がふられたという状況なのに、バゲットで鴨のソースを拭き取って優雅に口に投げ入れるその様はまったく堪えていない様子で。
グーデリアンは、そりゃ各自の事情に立ち入らないは暗黙の了解だけれど、一応恋人という立場の自分になんの相談もなしにとか色々と言いたいことはあるはずなのだが、それよりも色事師的立ち位置からのツッコミを押さえることはできなかった。
「お前・・何したの・・」
「何も。」
「最後に会った時、何があったか言ってみな?」
「あー・・・差し入れで、手作りだというクッキーとサンドイッチをもらったかな。クッキーはこねすぎてグルテンが出過ぎていたし、サンドイッチのバターは温度を戻さず塗ったのだろうな、こってりと塗り過ぎていた。」
「・・まさかそれ、本人に言った?」
「言った。感想を正直に言ってくれというものだから。」
グーデリアンは頭を抱えた。
そこはそういう意味じゃない、そもそも質問じゃないだろう!と言いたいのだが、ハイネルに説明するだけの語彙力がない自分が恨めしい。こんなことならカレッジ行っとくんだったか?心理学の学位とっとけよと数年前の自分に説教したくなる。
そんな様子を気にも留めず、ハイネルは再びギャルソンを呼び、グーデリアンもいることだし、何かデザートをとメニューを持ってこさせる。
「それでも私が、どう作っているかわからない素人の手料理を食べているだけで進歩だと思わないか?」
「・・お前が色恋を覚えるまでに人類が滅びそうだよ。」

来るもの拒まず、去る者追わず。
こんなハイネルと仕事をする女性スタッフたちはさぞや大変かと思うが、むしろこのドライで性別で態度を使い分けない上司は仕事がしやすいらしい。
しかしビジネスならともかく、こいつは恋人ですら自分よりメリットがある相手がいればあっさり乗り換えてしまう気がする。それが男でも女でも。

-俺もしかして、世界で一番やっかいな相手に手を出してしまったんじゃなかろうか。

見た目にそぐわずデザート前にまだ嬉しそうにがっつりと肉をほおばっている恋人に、グーデリアンはワインとともにため息を飲みこんだ。渋さが胃の腑まで染みる気がした。

-----
いつも何か食べてるなぁ
がんばれ色事師。

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