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ハイネルがパソコンから眼を上げた時、手元の時計は既に23時半を差していた。
思わず伸びをして、今日は珍しく早く寝ようかと空になったコーヒーのカップを取り上げる。
ベッドと机のみのコンパクトな自室からキッチンへ移動しようと立ち上がると、突如机の上の携帯電話が鳴り始めた。

携帯電話の画面で相手を確認すると、ハイネルは大きなため息をつき、しぶしぶと通話のボタンを押した。
「こんな時間に・・」
「・・やっほーハイネル・・・元気ぃ?」
怒鳴りつけてやろうかと思った相手の意外なテンションに、ハイネルの毒気が抜かれる。
「どうしたんだ、一体。」
「うん、なんでもないんだけどさ。ちょっと誰かの声が聞きたくなって。」
なんでもないわけではなさそうな声のグーデリアンに、ますます不信感が募る。
「・・・・今、どこだ?」
「んー、噴水前?。今までバーで飲んでたんだけどね、なんか酔えなくてさ。」
「・・今から行く。そこを動くな。」
手近にあったカーディガンと鍵をつかみ、ハイネルは通話を切らずにアパートメントを飛び出した。

大分暖かくなったものの、夜はまだ気温が下がる。
カーディガンの間から入ってくる湿った冷気を振り切るように石畳を走り抜けると、電話通りの場所にグーデリアンはいた。
「早いね。」
いつもの陽気さをどこかへ置いてきた大男が、噴水に腰かけたまま上を向いて力なく笑う。
ハイネルはやっと手に握りしめた携帯電話の通話を切り、前に立った。
「どうしたというんだ。」
「なんでもないよ。本当に。誰かの声が聞きたかっただけ。」
「・・8時間もすれば朝になる。」
「待てなかったんだ。まさか来てくれるとは思わなかったけど。」
足に肘をつき、手に顎を載せて目を伏せる。その姿があまりにも切なくて思わず。
「・・冷えるから、私のアパートメントにくるか?近くだ。」
「え・・?」
グーデリアンが顔を上げると、そこには自分の口から飛び出した言葉が信じられないといった風のハイネルがいた。

「コーヒーしかないが。」
「うん。」
リビングのソファに座ったグーデリアンに、ハイネルがカップを手渡す。
自分用にも新しいカップを出し、その日何杯目かのコーヒーをほぼ機械的に口に運ぶ。
グーデリアンは濃いコーヒーを一口すすり、手を止めた。
「ハイネル、砂糖、ある?」
普段、砂糖を入れる習慣がないハイネルは、言われるまで気付かなかった。
「置いてないな。えーと・・牛乳ならある。」
「それでいいや。ちょっと薄めていい?」
「持ってこよう。」
キッチンへ向かい、ほとんど物の入っていない冷蔵庫から牛乳を出してリビングへ戻る。
瓶を渡すとグーデリアンはカップのふちまでなみなみと注いだ。

「ドイツのコーヒーって、苦いよなぁ。」
当たり前のことをぽつりとつぶやいたグーデリアンに、ハイネルがいぶかしげに眉をひそめる。
「アメリカのコーヒーが薄すぎるんだ。」
「そだね。でも俺、今まで基本の生活拠点はアメリカだったからさ。」
チームの立ち上げ発表から数カ月。グーデリアンはこの春からはドイツで生活することが多くなった。
「ホームシックか、柄にもない?」
「そうかも。」
からかえばいつものように言い返してくるかと思えば、すんなりと認めてしまう。ハイネルはため息をついた。
「転戦してても基本、レース関係者は英語だろ?」
語学に堪能なハイネルならまだしも、ドイツ語圏内ではグーデリアンは思ったように言葉が通じない。
人生初のアウェイのもどかしさに加えて、コーヒー一つでも違うこの国になかなかなじめないもどかしさがだんだんと積り、グーデリアンの心を浸食していった。
「思ったより、堪えててさ。自分でも情けねぇって思うけど。」
ぽつぽつと語るグーデリアンは、日頃のキャラクターから他のスタッフには言いだせなかったのだろう。
アウェイの厳しさは自分もよくわかっている。軽く笑い飛ばすでもなく、ハイネルはただ静かにうなずいて聞いていた。

「あー、英語で愚痴ったら、なんか気が済んだ。」
ひとしきり話をした後、グーデリアンは大きく伸びをした。すっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲んでしまう。
「落ち着いたら帰れ。もう深夜だ。」
「・・なんか、一人の部屋に帰りたくないんだよ。なぁ、泊まってっていい?」
「構わないが、この家には余分なベッドはないぞ。ソファでよければ。」
「いいよ。」
「では、バスも一つしかないから先に使え。その間に用意する。」
ハイネルがコーヒーのカップを片づけ始めると、グーデリアンは立ち上がった。
「ありがと。」
戸棚を開けて予備のクッションや毛布を出し始める後ろ姿を、なぜか抱きしめたくなった気がした。

「あー、忘れていたが、飲み物や食べ物は冷蔵庫に入っているから適当に食べていいぞ。水と牛乳と果物、あとはシリアルくらいしかないが。」
グーデリアンがクッションを枕に厚い毛布にかけ、タブレット電話をいじりながら寝転がっていると、不意に頭上から声がした。
そちらに目をやると、バスロープ姿の若い男。茶色い洗い髪から覗く緑色の目がこちらを見ていた。
「・・えと・・どちらさま?」
「何を言ってるんだ?」
低い声と、眉をひそめるその仕草はあまりにもよく知ったもので。
「って・・お前、ハイネル?!」
「もう寝ぼけているのか?携帯電話で遊んでないで、さっさと寝ろ。」
肩をすくめると、ハイネルはリビングの電気を消して出て行ってしまった。
グーデリアンはさっき見た光景が目に焼き付いてしまい、暗闇の中でしばらく固まっていた。

『あれが素顔?意外に若い・・ってか、可愛い・・・いや、どうしたの俺?いくらドイツだからってそこまで不自由してないだろ?!』
厚い毛布に潜りながら、自分のホームシックの深さについて悶々と悩むジャッキー・グーデリアンであった。

そして結局は空いた部屋に自分用のベッドを手配してしまい、なし崩しの同居が始まるまであと一カ月。

-----------------------
最後20行が書きたかっただけ。
寂しがりすぎと、面倒見よすぎの泥沼カップル成立までの第一歩。

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