-ハイネル監督へ シーズン慰労BBQを企画しましたのでご確認ください。資料は持参します。あなたのご都合のいい時に。
-エーリヒへ では、明日のランチで。昼11時半カフェにて。
シーズンが佳境に差し掛かり多忙な中、総務若手のエーリヒはやっとのことでハイネルを捕まえた。
始めて最高責任者に宛てるメールということで、長く丁寧な文章としっかりした添付資料を添えていたのだか、シーズン終わりの慰労バーベキューの確認をしてほしい、ただそれだけのメールの返事がいつまでもこない。
呆れた総務マネージャーから、監督は長いメールには丁寧に返そうとするから出来るだけシンプルなメールで送ってみろと吹きこまれ、冒頭のメールとなったのである。
いい香りの漂うカフェで、エーリヒは初めてハイネルと差し向かいでテーブルについた。
「じゃあ、バーベキュー材料は200人分で、デリカテッセンと酒類の発注も頼む。去年、飲めないメンバーもいたから、甘くないノンアルコール飲料も多めに入れてくれ。あと、デザートを多めに。コンロはもう一つあったほうが回転がいいと思う。」
テスト走行帰りのレーシングスーツのままでもぺらぺらと資料をめくり、あっという間に盲点を見つけ、修正指示を出す。なるほど、ヘタに添付資料をつけるよりもこのほうが早いんだなとエーリヒは納得した。
こんな些細な仕事、部下におまかせでという手もあるのに、そこは妥協せずたとえ10分でも相談に乗ってくれる。各分野ではもちろん素晴らしい才能があるが、誰よりも広い視野をもち、誰よりも早い指示が出来る。
「ではこれでお願いする。資料がわかりやすかったから早く決まったよ。君のおかげだ。」
一見、冷たいほど整った顔に笑みが差す。あぁ、これが噂の・・と、エーリヒは自分の心がつかまれた瞬間を自覚した。
「俺、パエリアも食べたい。」
不意に上から降ってきた声に、ハイネルの笑みが一気に素へと戻った。
「なんか着替えもしないで先切り上げてくから、なんかたくらんでるのかなーって思ったら。」
見上げると、チームのトップドライバーがいた。白いTシャツから覗く太い腕。いつ見ても、体積以上に存在感が大きい気がするとエーリヒは感じる。大きなグラスに冷たい水を持ちながら、グーデリアンは空いている席にどかっと腰を下ろした。
「グーデリアン、データはとれたのか?」
「あんたの分もとっといたよ。ところで飯食った?」
「いや、まだだ。私はすぐ戻る。」
「食ってけよ。どうせパソコン仕事しながらなんかつまんで終わりのつもりだったんだろ?」
見れば、そろそろ早めの昼食を取ったりランチボックスを取りにくるスタッフが見える。急にエーリヒは胃が大きく鳴るのを感じた。
「な、これが普通に一般的に健康な20代男性って奴だぜ?」
「・・まるで私が不健康な生き物みたいじゃないか・・」
形のいい唇を尖らせて嫌そうにつぶやいた監督の落差に、なんとも言い難い感情を抱きそうになったエーリヒはあわてて目をそらした。
結局ハイネルはチリコンカンと魚のフリッターのプレートを取り、グーデリアンとエーリヒは玉ねぎソースのシュニッツェルをとってきた。
グーデリアンのトレイには山盛り肉の他は、意外にも山盛りのサラダと小さなパンとフルーツのジュースが載っていた。
「炭水化物制限中ですか?」
「ダイエットしないとねー、そこの監督さんが怖い怖い。」
「たんぱく質だって血糖値は上がるんだ。」
「ハイネルはもうちょっと筋肉もぜい肉もつけたほうがいいって言われてるくせに?」
「ぜい肉はいらん。」
言いながら、手をつける前にさりげなくフリッターを1つ2つ、グーデリアンの皿に移す。
ついでに、鉄分補給にとスタッフにほぼ強制的に渡されたココアのムースも、その横にこっそりと置く。
その、あまりにも手なれた様子にエーリヒは絶句した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あの・・もしかして、それ毎回無意識にやってますか?
「・・でさ、バーベキューなんだけど去年、ハイネルがサプライズでパエリア作っててさ、あれがうまかったんだよ。」
「デリカやサラダの材料と、ソーセージ類を適当に入れただけなんだが。」
「今年も作ってよ。」
「じゃあ、すまないがエーリヒ、米とサフランとオリーブオイル、大きめのパエリアパン2枚を追加で。」
「あ、はい。」
メモを書きとめるエーリヒの横で、だからお前は太るんだとか、だったらうまい飯食わすなよとか、暇だったらたまにはお前が作れとかやいやい言いながら二人は食事をし始める。
なんだこの落差は・・・。さっきまでの理想の上司が、途端に可愛い新妻になった気がするのは気のせいですか?。
いたたまれない気持ちになって、急に仕事を思い出したふりをしてあわてて食事をかきこんだエーリヒが退席した後も、そっと振り返ると二人はなにやら話し込んでいた。仕事の話かもしれないが、エーリヒには必要以上に距離が近いようにも見えた。
「で、打ち合わせは無事完了したのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一応は・・」
いつも艶やかで硬質で気品あふれる理想の上司が、ちょっと熱をかけられただけでへにゃっとしてとろとろくたくたになっている以外はまったく想定内です。
いっそマネージャーにそう報告してやろうかと思いながら、エーリヒは今日の昼食がまだやたらと胃にもたれているような気がした。
まるで山盛りのチョコレートを食べた後のような。
-------------------------------
難しいですよねチョコレートの保存はね。
-エーリヒへ では、明日のランチで。昼11時半カフェにて。
シーズンが佳境に差し掛かり多忙な中、総務若手のエーリヒはやっとのことでハイネルを捕まえた。
始めて最高責任者に宛てるメールということで、長く丁寧な文章としっかりした添付資料を添えていたのだか、シーズン終わりの慰労バーベキューの確認をしてほしい、ただそれだけのメールの返事がいつまでもこない。
呆れた総務マネージャーから、監督は長いメールには丁寧に返そうとするから出来るだけシンプルなメールで送ってみろと吹きこまれ、冒頭のメールとなったのである。
いい香りの漂うカフェで、エーリヒは初めてハイネルと差し向かいでテーブルについた。
「じゃあ、バーベキュー材料は200人分で、デリカテッセンと酒類の発注も頼む。去年、飲めないメンバーもいたから、甘くないノンアルコール飲料も多めに入れてくれ。あと、デザートを多めに。コンロはもう一つあったほうが回転がいいと思う。」
テスト走行帰りのレーシングスーツのままでもぺらぺらと資料をめくり、あっという間に盲点を見つけ、修正指示を出す。なるほど、ヘタに添付資料をつけるよりもこのほうが早いんだなとエーリヒは納得した。
こんな些細な仕事、部下におまかせでという手もあるのに、そこは妥協せずたとえ10分でも相談に乗ってくれる。各分野ではもちろん素晴らしい才能があるが、誰よりも広い視野をもち、誰よりも早い指示が出来る。
「ではこれでお願いする。資料がわかりやすかったから早く決まったよ。君のおかげだ。」
一見、冷たいほど整った顔に笑みが差す。あぁ、これが噂の・・と、エーリヒは自分の心がつかまれた瞬間を自覚した。
「俺、パエリアも食べたい。」
不意に上から降ってきた声に、ハイネルの笑みが一気に素へと戻った。
「なんか着替えもしないで先切り上げてくから、なんかたくらんでるのかなーって思ったら。」
見上げると、チームのトップドライバーがいた。白いTシャツから覗く太い腕。いつ見ても、体積以上に存在感が大きい気がするとエーリヒは感じる。大きなグラスに冷たい水を持ちながら、グーデリアンは空いている席にどかっと腰を下ろした。
「グーデリアン、データはとれたのか?」
「あんたの分もとっといたよ。ところで飯食った?」
「いや、まだだ。私はすぐ戻る。」
「食ってけよ。どうせパソコン仕事しながらなんかつまんで終わりのつもりだったんだろ?」
見れば、そろそろ早めの昼食を取ったりランチボックスを取りにくるスタッフが見える。急にエーリヒは胃が大きく鳴るのを感じた。
「な、これが普通に一般的に健康な20代男性って奴だぜ?」
「・・まるで私が不健康な生き物みたいじゃないか・・」
形のいい唇を尖らせて嫌そうにつぶやいた監督の落差に、なんとも言い難い感情を抱きそうになったエーリヒはあわてて目をそらした。
結局ハイネルはチリコンカンと魚のフリッターのプレートを取り、グーデリアンとエーリヒは玉ねぎソースのシュニッツェルをとってきた。
グーデリアンのトレイには山盛り肉の他は、意外にも山盛りのサラダと小さなパンとフルーツのジュースが載っていた。
「炭水化物制限中ですか?」
「ダイエットしないとねー、そこの監督さんが怖い怖い。」
「たんぱく質だって血糖値は上がるんだ。」
「ハイネルはもうちょっと筋肉もぜい肉もつけたほうがいいって言われてるくせに?」
「ぜい肉はいらん。」
言いながら、手をつける前にさりげなくフリッターを1つ2つ、グーデリアンの皿に移す。
ついでに、鉄分補給にとスタッフにほぼ強制的に渡されたココアのムースも、その横にこっそりと置く。
その、あまりにも手なれた様子にエーリヒは絶句した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あの・・もしかして、それ毎回無意識にやってますか?
「・・でさ、バーベキューなんだけど去年、ハイネルがサプライズでパエリア作っててさ、あれがうまかったんだよ。」
「デリカやサラダの材料と、ソーセージ類を適当に入れただけなんだが。」
「今年も作ってよ。」
「じゃあ、すまないがエーリヒ、米とサフランとオリーブオイル、大きめのパエリアパン2枚を追加で。」
「あ、はい。」
メモを書きとめるエーリヒの横で、だからお前は太るんだとか、だったらうまい飯食わすなよとか、暇だったらたまにはお前が作れとかやいやい言いながら二人は食事をし始める。
なんだこの落差は・・・。さっきまでの理想の上司が、途端に可愛い新妻になった気がするのは気のせいですか?。
いたたまれない気持ちになって、急に仕事を思い出したふりをしてあわてて食事をかきこんだエーリヒが退席した後も、そっと振り返ると二人はなにやら話し込んでいた。仕事の話かもしれないが、エーリヒには必要以上に距離が近いようにも見えた。
「で、打ち合わせは無事完了したのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一応は・・」
いつも艶やかで硬質で気品あふれる理想の上司が、ちょっと熱をかけられただけでへにゃっとしてとろとろくたくたになっている以外はまったく想定内です。
いっそマネージャーにそう報告してやろうかと思いながら、エーリヒは今日の昼食がまだやたらと胃にもたれているような気がした。
まるで山盛りのチョコレートを食べた後のような。
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難しいですよねチョコレートの保存はね。
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ここはいわゆる同人誌といわれるものを扱っているファンサイトです。
もちろんそれらの作品とはなんら関係はありません。
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