ハイネルのドイツのラボ近くのアパートメントは、本当に最低限の着替えと「仕事するだけ」「寝るだけ」の装備しか置いていない。
30分も車を走らせて本宅に帰れば広大な庭のある、無限に部屋のある邸宅が待っているし、なにより片づける部屋が少ないというのがありがたいと思うタイプの人間だった。
(それでも、月に1-2度はルームクリーニングを入れている。)
別にラボに泊まってもいいのだが、そこは監督として部下がますます帰りにくい状況を作るわけにもいかないので、近所に小さな部屋を借りる算段となったわけである。
小さなキッチンとリビングとバスルーム、大小のベッドルームが一つずつ。
パソコンさえ持ち出せばそれで引き渡しが完了するような、あっさりとした部屋となっていた。
大きなベッドルームにあるのは、クイーンサイズのベッドと、携帯とメガネをおくベッドサイドボードだけ。
ここも、グーデリアンがたびたび泊まるようになるまではただの空き部屋で、一人の時は仕事部屋のシングルベッド、もしくは椅子の上で仮眠をとるのがせいぜいだった。
「たーだいまー。」
日付が変わった頃、騒がしくドアが開き、いい色に日焼けした埃っぽい大男が現れた。
「おかえり。接待ご苦労。」
「まったく、主要メンバーがこっち帰ってきちゃってるから。まだ仕事?」
「もう少し残っている。明日も早いから早くカタをつける。」
「そ。俺、シャワー入ってくる。」
グーデリアンがばたばたと去って行くと、部屋は一気に広さが増した気がする。
なんだか集中力が急に途切れた気がしたハイネルはパソコンをパタリと閉じると電気を消し、隣へ移った。
自然にふぁ、と大きなあくびが出てくる。ハイネルはメガネをボードの上に置いた。
携帯と一緒に、念のために目覚ましも 5時間ほど先にセットした。
パジャマの上のガウンは足元に放り出し、もそもそとベッドにもぐりこむ。
シーツが温まり、うとうとし始めた頃、ベッドのきしむ感触を感じた。
うっすら目を開けると、まだ湯気の上がった状態のグーデリアンが傍らに腰かけていた。
「・・眠いんだ。あっちで勝手に寝ていろ。」
「そういうんじゃなくてねー、昨日、顔色悪かったから。肩こり大丈夫?」 。
「・・風邪ひくぞ。はやく寝ろ。」
「んー、ハイネルは寝てていいからちょっとうつ伏せになれる?。明日大変だろ?」
図星だったのか、おとなしくうつ伏せになったハイネルのベッドの上掛けを半分剥ぎ、首から肩にかけて少しずつ押さえていく。
毎日トレーニングをしているのだから適度にトレーナーにほぐしてもらえればいいのだが、その暇すらない時期のハイネルはそこをはしょって時々疲労をため込み、ひどい頭痛を伴って寝込むことがあった。
「っ。」
肩甲骨の間を温かい大きな手でぐっとおさえると、顔を押し付けた枕から思わず吐息が漏れた。
「かちこちだよねー。薬でごまかすんじゃなくてさ、もっと自分大切にしなよ。」
「うるさい。」
「車に添加剤とか入れると怒るくせに、なんで自分はドーピング上等なのよ。」
酷使されている脚・腕の筋肉の疲労もともかく、腕からほぼ背中全面の筋肉が冷たく硬直しており、特におそらく夕方からずっと座りっぱなしだった臀部から腿にかけての冷えはなかなか手ごわかった。
上掛けを更に剥ぎ、ゆっくりと場所を変えてマッサージしていく。
ハイネルは接点から伝わる体温が体の奥深くまで届くのを感じながら、自然と目を閉じた。
グーデリアンはふと、時々吐息に違う色が混じるのに気がついた。
そういえば週末に体を重ねて以来・・今週はずっと忙しくてすれ違いで遠慮していたなと思いだす。
耳元に口を寄せてちょっと甘い声で囁いてみる。
「あのさ、・・・最近自分で、した?というか、する暇あった?」
「・・・・・」
耳が赤くなり、枕に顔をうずめる。
「オーケィ、こっちもやっとくよ。」
「や・・」
グーデリアンは飛び起きようとする背中を太い腕で簡単に押さえ、ハイネルの背にかぶさるように寝ころんだ。
「大丈夫大丈夫、前だけね。ちょっと楽にするだけだから。」
「じ、自分でする!」
「何言ってんの、もうそういう仲でもないだろ?生理現象だから恥ずかしくないよ。」
さらにぐっと引き寄せると、ちょうど腰のあたりに手が届く体制になる。
肩口から回した片手でハイネルの手首をつかみ、もう一方の手でチェストの引き出しを漁り、手探りでスキンを取りだした。
「着替えるの嫌だろ?」
「あ・・」
歯と片手で器用にパッケージを開け、パジャマの間からするりと手を入れる。それだけで背中がぴくりと動く。
脚を絡めて閉じられないようにしてから手をゆっくりと動かし始めると、楽器のように口から様々な吐息があふれ出す。その姿に、グーデリアンは欲情というよりは精神的な満足感を感じていた。
世界最高峰のバイオリニストやトランペッターってこんな感じなんだろうと。
他の人には出せない声が出せるなんてぞくぞくするよな。
「あ・・はぁっ・・」
ハイネルの背がグーデリアンの胸に押し付けられるようにのけぞり、硬直したのを確認し、グーデリアンはハイネル自身から手を離した。
ハイネルのための奉仕のはずが、歯止めが利かなくなりそうな自分に罪悪感を覚える。
「ちょっと動かないで待ってて。」
チェストの中を再び漁り、恥ずかしさを感じるより早く、手際良く後処理をしてしまう。
「ごめんな。俺は向こうで寝るから安心して。」
放心状態のハイネルの背になぜか詫びを入れながら、上掛けでしっかり肩まで包み込む。
その手に、ベッドの中から出てきた手がそっと触れた。
「・・朝まで一緒にいて・・ほしい・・」
精一杯絞り出されたつぶやきに、グーデリアンは眼を見開いた。
「いいの、俺いて?。襲っちゃうかもよ?」
「・・それは困る。」
「無茶言うなぁ。」
グーデリアンはどこまでも金色の、懐っこい笑みを浮かべならわきに滑りこむ。
その姿を横目で見ながら、ハイネルは言い知れない安堵感に包まれるのを感じた。
それは、太陽と空に包まれている感覚によく似ていた。
-------------------
同じような下書きを二つ発見し、ついでなんでちょっとだけ違う視点で。
(それもすりあわせしないっていう、斬新な方法)
30分も車を走らせて本宅に帰れば広大な庭のある、無限に部屋のある邸宅が待っているし、なにより片づける部屋が少ないというのがありがたいと思うタイプの人間だった。
(それでも、月に1-2度はルームクリーニングを入れている。)
別にラボに泊まってもいいのだが、そこは監督として部下がますます帰りにくい状況を作るわけにもいかないので、近所に小さな部屋を借りる算段となったわけである。
小さなキッチンとリビングとバスルーム、大小のベッドルームが一つずつ。
パソコンさえ持ち出せばそれで引き渡しが完了するような、あっさりとした部屋となっていた。
大きなベッドルームにあるのは、クイーンサイズのベッドと、携帯とメガネをおくベッドサイドボードだけ。
ここも、グーデリアンがたびたび泊まるようになるまではただの空き部屋で、一人の時は仕事部屋のシングルベッド、もしくは椅子の上で仮眠をとるのがせいぜいだった。
「たーだいまー。」
日付が変わった頃、騒がしくドアが開き、いい色に日焼けした埃っぽい大男が現れた。
「おかえり。接待ご苦労。」
「まったく、主要メンバーがこっち帰ってきちゃってるから。まだ仕事?」
「もう少し残っている。明日も早いから早くカタをつける。」
「そ。俺、シャワー入ってくる。」
グーデリアンがばたばたと去って行くと、部屋は一気に広さが増した気がする。
なんだか集中力が急に途切れた気がしたハイネルはパソコンをパタリと閉じると電気を消し、隣へ移った。
自然にふぁ、と大きなあくびが出てくる。ハイネルはメガネをボードの上に置いた。
携帯と一緒に、念のために目覚ましも 5時間ほど先にセットした。
パジャマの上のガウンは足元に放り出し、もそもそとベッドにもぐりこむ。
シーツが温まり、うとうとし始めた頃、ベッドのきしむ感触を感じた。
うっすら目を開けると、まだ湯気の上がった状態のグーデリアンが傍らに腰かけていた。
「・・眠いんだ。あっちで勝手に寝ていろ。」
「そういうんじゃなくてねー、昨日、顔色悪かったから。肩こり大丈夫?」 。
「・・風邪ひくぞ。はやく寝ろ。」
「んー、ハイネルは寝てていいからちょっとうつ伏せになれる?。明日大変だろ?」
図星だったのか、おとなしくうつ伏せになったハイネルのベッドの上掛けを半分剥ぎ、首から肩にかけて少しずつ押さえていく。
毎日トレーニングをしているのだから適度にトレーナーにほぐしてもらえればいいのだが、その暇すらない時期のハイネルはそこをはしょって時々疲労をため込み、ひどい頭痛を伴って寝込むことがあった。
「っ。」
肩甲骨の間を温かい大きな手でぐっとおさえると、顔を押し付けた枕から思わず吐息が漏れた。
「かちこちだよねー。薬でごまかすんじゃなくてさ、もっと自分大切にしなよ。」
「うるさい。」
「車に添加剤とか入れると怒るくせに、なんで自分はドーピング上等なのよ。」
酷使されている脚・腕の筋肉の疲労もともかく、腕からほぼ背中全面の筋肉が冷たく硬直しており、特におそらく夕方からずっと座りっぱなしだった臀部から腿にかけての冷えはなかなか手ごわかった。
上掛けを更に剥ぎ、ゆっくりと場所を変えてマッサージしていく。
ハイネルは接点から伝わる体温が体の奥深くまで届くのを感じながら、自然と目を閉じた。
グーデリアンはふと、時々吐息に違う色が混じるのに気がついた。
そういえば週末に体を重ねて以来・・今週はずっと忙しくてすれ違いで遠慮していたなと思いだす。
耳元に口を寄せてちょっと甘い声で囁いてみる。
「あのさ、・・・最近自分で、した?というか、する暇あった?」
「・・・・・」
耳が赤くなり、枕に顔をうずめる。
「オーケィ、こっちもやっとくよ。」
「や・・」
グーデリアンは飛び起きようとする背中を太い腕で簡単に押さえ、ハイネルの背にかぶさるように寝ころんだ。
「大丈夫大丈夫、前だけね。ちょっと楽にするだけだから。」
「じ、自分でする!」
「何言ってんの、もうそういう仲でもないだろ?生理現象だから恥ずかしくないよ。」
さらにぐっと引き寄せると、ちょうど腰のあたりに手が届く体制になる。
肩口から回した片手でハイネルの手首をつかみ、もう一方の手でチェストの引き出しを漁り、手探りでスキンを取りだした。
「着替えるの嫌だろ?」
「あ・・」
歯と片手で器用にパッケージを開け、パジャマの間からするりと手を入れる。それだけで背中がぴくりと動く。
脚を絡めて閉じられないようにしてから手をゆっくりと動かし始めると、楽器のように口から様々な吐息があふれ出す。その姿に、グーデリアンは欲情というよりは精神的な満足感を感じていた。
世界最高峰のバイオリニストやトランペッターってこんな感じなんだろうと。
他の人には出せない声が出せるなんてぞくぞくするよな。
「あ・・はぁっ・・」
ハイネルの背がグーデリアンの胸に押し付けられるようにのけぞり、硬直したのを確認し、グーデリアンはハイネル自身から手を離した。
ハイネルのための奉仕のはずが、歯止めが利かなくなりそうな自分に罪悪感を覚える。
「ちょっと動かないで待ってて。」
チェストの中を再び漁り、恥ずかしさを感じるより早く、手際良く後処理をしてしまう。
「ごめんな。俺は向こうで寝るから安心して。」
放心状態のハイネルの背になぜか詫びを入れながら、上掛けでしっかり肩まで包み込む。
その手に、ベッドの中から出てきた手がそっと触れた。
「・・朝まで一緒にいて・・ほしい・・」
精一杯絞り出されたつぶやきに、グーデリアンは眼を見開いた。
「いいの、俺いて?。襲っちゃうかもよ?」
「・・それは困る。」
「無茶言うなぁ。」
グーデリアンはどこまでも金色の、懐っこい笑みを浮かべならわきに滑りこむ。
その姿を横目で見ながら、ハイネルは言い知れない安堵感に包まれるのを感じた。
それは、太陽と空に包まれている感覚によく似ていた。
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同じような下書きを二つ発見し、ついでなんでちょっとだけ違う視点で。
(それもすりあわせしないっていう、斬新な方法)
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ここはいわゆる同人誌といわれるものを扱っているファンサイトです。
もちろんそれらの作品とはなんら関係はありません。
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パスワードが請求されたら、誕生日で8ケタ(不親切な説明・・)。