「私の車がそろそろ代え時なんだ。ついでに、不便だと思うからそろそろお前用にも一台車を用意しようと思うんだが。」
トレーニングから戻ってきたグーデリアンに、ハイネルは唐突に尋ねかけた。
チーム移籍でドイツに滞在するようになって、グーデリアンは最初、ハイネルやチームクルーに送り迎えをしてもらっていた。
が、生来のカウボーイ。滞在が長くなるとふらっと放浪癖も出てくる。
その時はとりあえず、ハイネルの車を借りて出かけてみたがこの車が激しかった。
加速は妙なGがかかり、ブレーキは効きすぎる。これは、絶対女の子とのドライブには使えないやつだよな。
最近の市販車はすごいねぇと呑気に思いつつ、ちょっと気まぐれにカーブを攻めてみればアタリ幅が非常にシビアで、いつものつもりで曲がったらいきなりスピンして植木に突っ込みそうになった。
さすがに咄嗟のコントロールで激突は回避したが、ひどくタイヤを減らしてしまったため、ものすごい勢いで怒鳴られると恐る恐る報告したら、持ち主は「そろそろ代え時だから壊してもよかったのに」と来たもんだ。
ハイネルは関連会社の、「高くなるほど小さく軽くなる」不思議なラインナップのスポーツシリーズの、とあるモデルを数年ごとに乗りつぶしていた。
小さく軽い車体に呆れる馬力を積んでそのままサーキットに持っていってもそこそこのタイムが叩きだせる、現行販売車の中ではかなりのチートモデルではある。
しかしイタリア車にあるようなギラギラした感じは全くなく、むしろ地味である。それも最新型を狙っているわけでもなく、ある程度距離がきたら乗り換える。
親会社に操をたてているのかとも思ったが、ハイネルは車に関してはグーデリアン以上に手癖が悪いというか恋多き男であり、本宅のガレージには「いつか乗るから!」という理由で1ダースも車が隠してあったりするから、特に、身近でCFや趣味の車に固執する姿を見ているグーデリアンとしてはなにかあっさりしすぎて気味が悪いとすら感じていた。
「俺そんなに乗らないし、もったいないから、ハイネルさえよければ借りものでいいよ。」
ちょっと遠慮して、というか、嫌な予感のするグーデリアンは大げさに要らないそぶりを見せてみた。
「いやそんなに高くない・・確か原価はこれくらいだ。」
端末の端をちょちょっと触りこっそり出されたその金額を見て、一応まだ一般人に近い金銭感覚をもつグーデリアンはくらっと来た。
「段差も道幅もそんなに気にしなくていいし、なにより壊してもすぐ代えがきくぞ?」
坊ちゃんはまるで家族向けコンパクトカーの宣伝でもするようにしれっと、世の中のオーナー達が聞いたら徒党を組んでクレームをつけてきそうな暴言を吐いた。
そして数日後、前の車とほとんど変わっていない新車がラボに届いた。
キーを受け取るなり、ハイネルはエンジンルームを開け、スタッフに声をかける。
「誰かコントロールユニット持ってるか?」
「どうぞ。」
受け取ったタブレットをケーブルに繋ぎ、パスワードを打ち込んでハイネルは何やら入力を始めた。
「何してんの?」
「いや、コンピューターの設定だけちょっと・・さすがにそのままだと、コンピューター制御が効きすぎて気持ちが悪い。」
「精密機械同士が干渉しあってんの?」
軽口をたたきつつ、後から画面を覗き込んだグーデリアンは目を疑った。
「ちょ、何だよこれ!これだとCFレーサーかカウボーイくらいしか運転できないってば!」
「私とお前くらいしか運転しないから、問題ないだろう?手放す時は戻してるぞ?」
いやいやいやいや。こんなのサイバーシステムなしのCFと変わらないよ?。
そもそもRRのライトウエイトって、いくら前にガソリンタンクつけても前のタイヤはお飾りでしょ?
この車で、この設定でハイネルは去年のあの冬の雪道を走っていたわけ?
そして、結構お抱え運転手もやっちゃってる今年は、それは俺の役目なわけ?
いくらレーサーとはいえ、実はあまり雪なんか降らない地方に住んでいる身としてはそれはあまりにも過酷な状況だった。
「知らなかったんですか・・グーデリアンさん・・・」
「さすがハイテクのカウボーイっていうか。」
「それでも乗れてたってすごいよなぁ。」
「うん。俺ならちょっと考える。・・・・野性児?」
スタッフ一同から、憐れみを通り越して称賛の目が向けられる。
さすがお前だよ、俺達どれだけ監督を崇拝してても、絶対そこまで尽くせません。
「で、結局車は本当に要らないのか?」
それでも新車はそれなりに嬉しいのか、機嫌のよいハイネルはエンジンルームをぱたんと閉めながら呆然とするグーデリアンに声をかけた。
「あー・・やっぱり4WDのSUV一台お願いします・・雪道とか乗りやすいやつ・・どノーマルで・・。」
大きな図体をしなっと萎れさせて、まるで燃え尽きたボクサーのようにパイプ椅子に座りこんでしまったグーデリアンが呟いた。
「ふぅん?・・まぁ、手配するが。なんならスタッフに手伝ってもらえば、ターボユニット後付けとかもできるぞ?」
ハイネルが小首を傾げる。
「普通でいいです。つか、普通がいいです。おねがいしまぁす・・・・・」
グーデリアンは力なく笑った。
だから精密機械ってのは!
トレーニングから戻ってきたグーデリアンに、ハイネルは唐突に尋ねかけた。
チーム移籍でドイツに滞在するようになって、グーデリアンは最初、ハイネルやチームクルーに送り迎えをしてもらっていた。
が、生来のカウボーイ。滞在が長くなるとふらっと放浪癖も出てくる。
その時はとりあえず、ハイネルの車を借りて出かけてみたがこの車が激しかった。
加速は妙なGがかかり、ブレーキは効きすぎる。これは、絶対女の子とのドライブには使えないやつだよな。
最近の市販車はすごいねぇと呑気に思いつつ、ちょっと気まぐれにカーブを攻めてみればアタリ幅が非常にシビアで、いつものつもりで曲がったらいきなりスピンして植木に突っ込みそうになった。
さすがに咄嗟のコントロールで激突は回避したが、ひどくタイヤを減らしてしまったため、ものすごい勢いで怒鳴られると恐る恐る報告したら、持ち主は「そろそろ代え時だから壊してもよかったのに」と来たもんだ。
ハイネルは関連会社の、「高くなるほど小さく軽くなる」不思議なラインナップのスポーツシリーズの、とあるモデルを数年ごとに乗りつぶしていた。
小さく軽い車体に呆れる馬力を積んでそのままサーキットに持っていってもそこそこのタイムが叩きだせる、現行販売車の中ではかなりのチートモデルではある。
しかしイタリア車にあるようなギラギラした感じは全くなく、むしろ地味である。それも最新型を狙っているわけでもなく、ある程度距離がきたら乗り換える。
親会社に操をたてているのかとも思ったが、ハイネルは車に関してはグーデリアン以上に手癖が悪いというか恋多き男であり、本宅のガレージには「いつか乗るから!」という理由で1ダースも車が隠してあったりするから、特に、身近でCFや趣味の車に固執する姿を見ているグーデリアンとしてはなにかあっさりしすぎて気味が悪いとすら感じていた。
「俺そんなに乗らないし、もったいないから、ハイネルさえよければ借りものでいいよ。」
ちょっと遠慮して、というか、嫌な予感のするグーデリアンは大げさに要らないそぶりを見せてみた。
「いやそんなに高くない・・確か原価はこれくらいだ。」
端末の端をちょちょっと触りこっそり出されたその金額を見て、一応まだ一般人に近い金銭感覚をもつグーデリアンはくらっと来た。
「段差も道幅もそんなに気にしなくていいし、なにより壊してもすぐ代えがきくぞ?」
坊ちゃんはまるで家族向けコンパクトカーの宣伝でもするようにしれっと、世の中のオーナー達が聞いたら徒党を組んでクレームをつけてきそうな暴言を吐いた。
そして数日後、前の車とほとんど変わっていない新車がラボに届いた。
キーを受け取るなり、ハイネルはエンジンルームを開け、スタッフに声をかける。
「誰かコントロールユニット持ってるか?」
「どうぞ。」
受け取ったタブレットをケーブルに繋ぎ、パスワードを打ち込んでハイネルは何やら入力を始めた。
「何してんの?」
「いや、コンピューターの設定だけちょっと・・さすがにそのままだと、コンピューター制御が効きすぎて気持ちが悪い。」
「精密機械同士が干渉しあってんの?」
軽口をたたきつつ、後から画面を覗き込んだグーデリアンは目を疑った。
「ちょ、何だよこれ!これだとCFレーサーかカウボーイくらいしか運転できないってば!」
「私とお前くらいしか運転しないから、問題ないだろう?手放す時は戻してるぞ?」
いやいやいやいや。こんなのサイバーシステムなしのCFと変わらないよ?。
そもそもRRのライトウエイトって、いくら前にガソリンタンクつけても前のタイヤはお飾りでしょ?
この車で、この設定でハイネルは去年のあの冬の雪道を走っていたわけ?
そして、結構お抱え運転手もやっちゃってる今年は、それは俺の役目なわけ?
いくらレーサーとはいえ、実はあまり雪なんか降らない地方に住んでいる身としてはそれはあまりにも過酷な状況だった。
「知らなかったんですか・・グーデリアンさん・・・」
「さすがハイテクのカウボーイっていうか。」
「それでも乗れてたってすごいよなぁ。」
「うん。俺ならちょっと考える。・・・・野性児?」
スタッフ一同から、憐れみを通り越して称賛の目が向けられる。
さすがお前だよ、俺達どれだけ監督を崇拝してても、絶対そこまで尽くせません。
「で、結局車は本当に要らないのか?」
それでも新車はそれなりに嬉しいのか、機嫌のよいハイネルはエンジンルームをぱたんと閉めながら呆然とするグーデリアンに声をかけた。
「あー・・やっぱり4WDのSUV一台お願いします・・雪道とか乗りやすいやつ・・どノーマルで・・。」
大きな図体をしなっと萎れさせて、まるで燃え尽きたボクサーのようにパイプ椅子に座りこんでしまったグーデリアンが呟いた。
「ふぅん?・・まぁ、手配するが。なんならスタッフに手伝ってもらえば、ターボユニット後付けとかもできるぞ?」
ハイネルが小首を傾げる。
「普通でいいです。つか、普通がいいです。おねがいしまぁす・・・・・」
グーデリアンは力なく笑った。
だから精密機械ってのは!
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ここはいわゆる同人誌といわれるものを扱っているファンサイトです。
もちろんそれらの作品とはなんら関係はありません。
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